ガジュマルの巨木が命を守る『木の上の軍隊』2025年10月14日

 いま、沖縄に来ている。映画『木の上の軍隊』(原案:井上ひさし、脚本・監督:平一紘、出演:堤真一、山田裕貴、他)を那覇市のシネマパレットで観た。

 舞台は沖縄の伊江島。1945年の終戦を知らずに2年間、ガジュマルの木の上で生き抜いた二人の日本兵の実話をベースにした物語である。以前にこまつ座が上演した芝居を沖縄出身の監督が映画化した。井上ひさしは、この芝居の原案メモを残して逝去。娘の井上麻矢(こまつ座社長)がメモを蓬莱竜太と影山民也に託して戯曲化、上演したそうだ。私はその芝居を観ていない。

 芝居を観ていないので映画と芝居との相違点はわからないが、映画を観ながら芝居よりは映画に向いた題材だと感じた。映画的な切り口で題材を料理した作品だから、そう感じるのが当然で、芝居を観れば芝居向きの題材だと感じるかもしれない。

 木の上で2年間も暮らした話だと聞いたとき、ファンタジーかと思った。実際には、人目を忍んで時々は地上に降りて食料などを調達する過酷な樹上生活の話だった。

 この映画は全編沖縄ロケで、伊江島に茂るガジュマルを使っている。本物のガジュマルの映像が、木の上と地上を行き来する生活の危うさをリアルに映し出す。地上から見つからないための樹上生活だから小屋掛けなどはできない。巨木とは言え、枝の上で寝起きし食事をとるのは容易でない。油断して地上に落下することもある。主人公たちにとっては極限状態であり、呑気なおとぎ話などではないのだが、緑豊かな映像がガジュマルの巨木に守られた生活のようにも感じられた。

 この映画で印象に残るもうひとつの光景は、南の島の青い海と白い砂浜である。その美しい映像も映画ならではの魅力だ。

 主人公二人は本土出身の上官と伊江島出身の朴訥な若い兵士である。当初、兵士にとって上官は恐ろしい存在だったが、月日とともに二人の関係が変化していく。そこに悲惨な戦争を背景にしたヒューマン・コメディが生まれる。人の生き抜く力を讃えた作品だ。

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