『物語イタリアの歴史 Ⅱ』は正編とはテイストの違う「物語」2020年02月11日

『物語イタリアの歴史 Ⅱ:皇帝ハドリアヌスからカラヴァッジョまで』(藤沢道郎/中公新書)
 『物語イタリアの歴史』が面白かったので、その続編と思しき次の本も読んだ。

 『物語イタリアの歴史 Ⅱ:皇帝ハドリアヌスからカラヴァッジョまで』(藤沢道郎/中公新書)

 本書は次の8話で構成されている。

  第1話 皇帝ハドリアヌスの物語
  第2話 大教皇グレゴリウスの物語
  第3話 マローツィア夫人とその息子たちの物語
  第4話 異端者アルナドの物語
  第5話 教皇ボニファティウス八世の物語
  第6話 ロレンツォ・デ・メディチの物語
  第7話 航海者コロンボの物語
  第8話 画家カラヴァッジョの物語

 『物語イタリアの歴史』の刊行は1991年、本書の刊行は13年後の2004年、著者の藤沢道郎氏は本書刊行3年前の2001年に亡くなっている。

 取り上げる人物が正編より二人減り、各編の分量も短くなり、全体にあっさりした印象である。本書は『物語イタリアの歴史』の続編として書き下ろされたのではなく、NHKの「イタリア語講座」のテキストに24回にわたって連載された「人物で語るイタリアの歴史」を著者の死後に関係者がまとめたものだそうだ。遺稿の編集だから没後3年の刊行なのである。

 前著の『物語イタリアの歴史』は、周到に仕込んだ材料で紡いだやや重厚な完結した「物語」だった。本書は前著とは少しテイストが違い、ローマの古跡「聖天使城」をキーワードに1世紀から17世紀までのイタリアの時の流れを物語っている。

 それは、ローマの教皇と周辺の都市国家(フィレンツェ、ミラノ、ジェノバ、ナポリなど)との確執の中で展開されるイタリア世界の興亡で、一つの完結した「物語」になっている。前半の興隆のよりは後半の衰退の部分の方が面白い。

 13世紀のヨーロッパは高度成長期で、14世紀から15世紀のルネサンスの時代がイタリアの絶頂期で、その後のイタリアは転落の一途をたどる。その見方が私には新鮮だった。

 転落の要因の一つはスペインの台頭である。ジェノバのコロンボ(日本語でコロンブスと呼ぶことの不適切を著者は数頁を費やして指摘している)はスペインの資金で新大陸を発見し、スペインに大きな利益をもたらす。

 スペインへ資金を提供したのは実はジェノバの財界だったという皮肉な話が面白い。ジェノバ共和国にはコロンボの事業を後援する実力も覇気もなかった。しかし、ジェノバの銀行には多額の金があり、銀行家は他国の王様にリスクを負わせて利息を手にいれる方が安全と考えていたそうだ。著者は「こうしてイタリアは奈落の底へと落ちていく」と述べている。

 終章にカラヴァッジョをもってきてルネサンスの巨匠たちとの比較で時代の変遷の実相を描いている。この話も私には新鮮で説得力があった。ミケランジェロもカラバッジョ(本名はミケランジェロ)も優れた才能の芸術家だが、生きた時代の違いで運命も作品も大きく異なるのである。