ヘレニズム期の宗教融合がテーマの『辺境の王朝と英雄』 ― 2025年10月12日
ローマ史家・本村凌二氏がメソポタミアからローマ帝国まで4000年の文明史を書き下す『地中海世界の歴史(全8巻)』の第4巻を読んだ。
『辺境の王朝と英雄:ヘレニズム文明(地中海世界の歴史4)』(本村凌二/講談社選書メチエ)
このシリーズの第1巻『神々のささやく世界』と第2巻『沈黙する神々の帝国』はオリエント、第3巻『白熱する人間たちの都市』はギリシアの歴史であり、それぞれの時代に生きた人々の心性の変遷という視点で語る文明史だった。
第4巻はオリエントとギリシアの文明が交錯するヘレニズムが主題である。著者は「はじめに」で次のように語っている。
「ヘレニズム文化とは、オリエントのギリシア化であるとともに、ギリシア文化のオリエント化でもある。非ギリシア系の人々に受け入れられたヘレニズム文化は、それだけに普遍的な性格をもっている。このために、ヘレニズム文化というよりもヘレニズム文明とよぶべきだろう。」
本書は全4章から成り、前半の1、2章はマケドニアのフィリッポス2世と息子のアレクサンドロス大王の事績概要である。類書や映画などで取り上げられてきたアレクサンドロス大王の物語を復習する気分で読んだ。
3章はアレクサンドロス死後の後継者戦争(ディアドコイ)の話がメインだ。私の知らない話が多く、勉強になった。アレクサンドロスは「民族の融合」ということを考えていたかもしれないが、後継者である部下たちにはそんな意図がなかったそうだ。したがって、各地にできたギリシアの植民都市において支配層のギリシア人と土着の人々との融合が進展したとは言えない。
本村氏の『地中海世界の歴史』シリーズの主題である心性の変遷は、最後の「第4章 共通語は新しい神を生む」になって展開される。
ヘレニズムというグローバル化が空前絶後といえるほどの規模で宗教融合(シンクレティズム)をもたらし、各地の固有の神が集約されて普遍的な神が生まれたと指摘している。この話の大筋は、本村氏の『多神教と一神教』のテーマに通じている。あの本を復習している気分になった。
アレクサンドロスやヘレニズムがテーマなら、攻め込んだギリシア視点だけでなく攻め込まれたオリエント視点での歴史記述も期待したが、そんな記述はなかった。バクトリアなどユーラシア西部のヘレニズムには軽く触れているだけだ。『地中海世界の歴史』だから当然なのかもしれないが…。
『辺境の王朝と英雄:ヘレニズム文明(地中海世界の歴史4)』(本村凌二/講談社選書メチエ)
このシリーズの第1巻『神々のささやく世界』と第2巻『沈黙する神々の帝国』はオリエント、第3巻『白熱する人間たちの都市』はギリシアの歴史であり、それぞれの時代に生きた人々の心性の変遷という視点で語る文明史だった。
第4巻はオリエントとギリシアの文明が交錯するヘレニズムが主題である。著者は「はじめに」で次のように語っている。
「ヘレニズム文化とは、オリエントのギリシア化であるとともに、ギリシア文化のオリエント化でもある。非ギリシア系の人々に受け入れられたヘレニズム文化は、それだけに普遍的な性格をもっている。このために、ヘレニズム文化というよりもヘレニズム文明とよぶべきだろう。」
本書は全4章から成り、前半の1、2章はマケドニアのフィリッポス2世と息子のアレクサンドロス大王の事績概要である。類書や映画などで取り上げられてきたアレクサンドロス大王の物語を復習する気分で読んだ。
3章はアレクサンドロス死後の後継者戦争(ディアドコイ)の話がメインだ。私の知らない話が多く、勉強になった。アレクサンドロスは「民族の融合」ということを考えていたかもしれないが、後継者である部下たちにはそんな意図がなかったそうだ。したがって、各地にできたギリシアの植民都市において支配層のギリシア人と土着の人々との融合が進展したとは言えない。
本村氏の『地中海世界の歴史』シリーズの主題である心性の変遷は、最後の「第4章 共通語は新しい神を生む」になって展開される。
ヘレニズムというグローバル化が空前絶後といえるほどの規模で宗教融合(シンクレティズム)をもたらし、各地の固有の神が集約されて普遍的な神が生まれたと指摘している。この話の大筋は、本村氏の『多神教と一神教』のテーマに通じている。あの本を復習している気分になった。
アレクサンドロスやヘレニズムがテーマなら、攻め込んだギリシア視点だけでなく攻め込まれたオリエント視点での歴史記述も期待したが、そんな記述はなかった。バクトリアなどユーラシア西部のヘレニズムには軽く触れているだけだ。『地中海世界の歴史』だから当然なのかもしれないが…。
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