前1000年頃の人類史の変容を示唆する『沈黙する神々の帝国』2024年12月10日

『沈黙する神々の帝国:地中海世界の歴史2 アッシリアとペルシア』(本村凌二/講談社選書メチエ)
 本村凌二氏の全8巻シリーズ『地中海世界の歴史』の第1巻『神々のささやく世界』に続いて第2巻を読んだ。

 『沈黙する神々の帝国:地中海世界の歴史2 アッシリアとペルシア』(本村凌二/講談社選書メチエ)

 本書は全4章で、第1章と第4章は大局的な考察になっていて、それに挟まれた第2章と第3章でアッシリア帝国とアケメネス朝ペルシア帝国の歴史を記述している。二つの世界帝国の具体的歴史を俯瞰的文明論で挟んだサンドイッチのような構成だ。

 第2章と第3章のタイトルは「強圧の世界帝国アッシリア」「寛容の世界帝国ペルシア」である。これを見て本村氏の旧著『地中海世界とローマ帝国』(2007年8月刊行)を想起した。あの本が冒頭で、アッシリアを「強圧の帝国」、アケメネス朝を「寛容の帝国」と簡潔に紹介していたのが深く記憶に残っている。それが私のアッシリアとアケメネス朝のイメージを定着させた。あの本では、この二つの帝国に続くアレクサンドロスの帝国を「野望の帝国」とし、ローマ帝国は先行する三つの世界帝国の要素すべてをもっているとしていた。

 本書によってアッシリアからアケメネス朝に至るオリエント史の概要を復習・整理できたが、そんな歴史概説が本書の主旨ではない。本書は「心性史」にウエイトを置いていて、その部分が肝要なのだ。語り口はやさしいが「心性史」を理解・納得するのはさほど容易ではない。

 著者は前1000年前後に歴史の大きな変容があったとしている。それを「神々のささやきが聞こえて時代」から「聞こえなくなった時代」への移行と表現し、それを示唆するものとして「アルファベット」「一神教」「貨幣」の登場を挙げている。著者が指摘する変容とは「精神的存在としての人間」の登場である。

 著者は、心性史の立場の歴史記述は事態を示唆できても実証することはできないと述べている。実証は難しいとされている旧約聖書に基づいた記述が多いのも、心性史ならではと思う。私は旧約聖書をきちんとは読んでいない。宗教史は苦手である。著者の描く心性史を十分に納得できたわけではないが、大きな物語には魅力を感じる。

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