『大名絵師写楽』は寛政期の奇妙で洒落た雰囲気を感得できる小説2019年05月08日

『大名絵師写楽』(野口卓/新潮社)
 写楽好きの友人から薦められて次の小説を読んだ。

 『大名絵師写楽』(野口卓/新潮社)

 18世紀末(寛政)の江戸に突如として登場して10カ月だけ活躍して姿を消した謎の絵師「写楽」を巡る物語である。私は写楽に関してはまったくの門外漢だが、その正体についていろいろな説があることは聞いている。

 この小説はタイトルが示しているように写楽を「ある大名(正確には隠居した元大名)」としている。フィクションではあるが、それなりの説得力のある仮説である。小説で言及される絵を画集で確認しながら興味深く読了できた。

 謎を追及するミステリー仕立てではなく、謎の絵師を作り上げていく仕掛け人(蔦屋重三郎ら)たちの話になっているのが楽しい。

 写楽の謎を巡る話も面白いが、むしろ寛政期の芝居小屋や版元の周辺に集う町人や武士たちの闊達な世界にこの小説の面白さを感じた。松平正信の寛政の改革による風紀取締まりの世における面従腹背世界の雰囲気が伝わってくる。戯作者と武士という二つの顔をもつ人物が象徴する奇妙で洒落た世界である。

 また、江戸の芝居小屋の事情や様子をつかめたのも収穫だった。江戸の芝居小屋における「櫓(やぐら)を許される」「櫓をあげる」という言葉がいまひとつよくわからなかったが、この小説によって「櫓」のイメージと意味を感得できた。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2019/05/08/9069958/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。