『独楽の科学』で「全日本製造業コマ大戦」を知り感動2019年01月17日

『独楽の科学:回転する物体はなぜ倒れないのか』(山崎詩郎/ブルーバックス/講談社)
 先月(昨年だ)中旬、歯医者の待合室で手にした『週刊文春』の「私の読書日記」で池澤夏樹氏が『独楽の科学』『ジャイロモノレール』を取り上げていた。記事を読み終えないうちに診療の順番が来た。気がかりな印象が宙づりのように残ったが、『ジャイロモノレール』は昨年末に入手して読んだ。そして、その読後記憶が何とか残っているうちにもう一冊も読むことができた。

 『独楽の科学:回転する物体はなぜ倒れないのか』(山崎詩郎/ブルーバックス/講談社)

 本書の導入部はコマの回転に関する力学的な解説で、たまにこういう文章を読むと頭の整理整頓をしている心地がする。

 だが、本書で俄然面白いのは「全日本製造業コマ大戦」の記録である。本書を読むまで、こんな世界があるとは知らなかった。2つのコマを土俵の上に投げ、相手を場外に飛ばすか、相手より長く回っていれば勝ちという対戦で、コマには直径2センチ以下、高さ6センチ以下という制約がある。

 この単純な対戦のために多くの製造業が技術の粹を集めて精密で奇抜なコマを開発しているそうだ。ネットで検索すると「コマ大戦」の動画がいくつかあり、試合の様子がよくわかる。

 著者の物理学的な解説のはじめの方を読んでいると理想的な最強のコマが自ずから決まるように思えてくる。ところがそんな単純な話ではなく、「戦うコマ」はさまざまな工夫によって進化し続けているそうだ。下町製造業の力強さが感じられる意外な話にびっくりすると同時に感動した。

 私は人類の歴史の「進歩」にはいささか懐疑的になっているが、小さな手廻しコマの奥深さを知り、創意工夫を続ける人類に愛おしさを感じた。