腰痛のおかげで新たな読書体験2014年08月07日

 バランスチェアなるものを通販で購入した。座面が前傾していて、すべり落ちそうになるが、それを膝で支える仕組みになっている。背筋が伸びた姿勢を維持しやすい椅子である。

 この形の椅子の存在は20年ぐらい前から知っていた。どんなものか試しに座ってみたいと思いつつ年月が経った。今回、この椅子を購入し、20年来の気がかりを解消できたのは、腰を痛めたからである。

 先日、ゴルフの練習場で60球ぐらい打った頃、急に前傾ができなくなった。いわゆる「魔女の一撃」をくらった自覚はなかったが、アドレスで前傾しようとすると腰がズキンとするのである。しばらく休んで再度試みたが、やはり痛い。しかたなく、残りの数十球は短いアプローチを手だけで打って帰宅した。

 5年前に初めてギックリ腰になった時は、強烈な「魔女の一撃」でその場に倒れこんだ。立つことも歩くこともできず、這ってベッドへ行き、そのまま横たわるしかなかった。それに比べれば今回はさほどでもない。すぐに直るだろうと思ったが、念のために整形外科に行った。医師はレントゲン写真を見ながら「脊椎の老化ですね。しばらく安静にしてください」とにべもない。65歳だから仕方ないが。

 その日の午後、所用で外出し2時間ばかり椅子に座っていると、どんどん腰が痛くなってきた。座る姿勢を変えてもあまりききめがない。立ち上がるときも難儀で、ソロソロと用心深く歩き始めるしかなかった。しばらく歩いていると何とか歩けるようになる。

 そんなわけで、翌日からの外出予定をいくつかキャンセルし、自宅で安静にして読書にはげむことにした。ところが、椅子に座って本を読んでいると、どんな姿勢をしてもすぐに腰が痛くなる。腰にとって椅子が苛酷なものだと初めて認識した。

 5年前のギックリ腰は重傷だったので数日間はベッドで過ごした。寝そべって本を読めば腰は楽だが、読書は長続きしない。うつ伏せや仰向けの読書は腕に負担だし、横向きだと眼鏡が邪魔で落ち着かない。いろいろ試してみると、立ったまま読書すると腰の負担が少なさそうだ。しかし、家の中で立ったまま読書するのは馬鹿みたいだし、長時間は無理だ。

 そこで思い至ったのが、以前から気になっていたバランスチェアである。試しにスツールを斜めにして座ってみると、腰にはよさそうだ。ネット通販で注文すると、翌日の夕方には届いた。痛い腰をいたわりながら梱包を解いて組み立て、さっそく座ってみた。なかなか具合がいい。

 翌日は、朝からこの椅子に座って本を読んだ。私は朝から夜まで読書を続けるということは滅多にないが、この日はほぼ一日中この椅子に座り続けて本を読んだ。腰はあまり痛くならない。この椅子は正解であった。比較的軽症のギックリ腰なので回復期になっていたのかもしれないが。

 バランスチェアは腰にやさしいだけでなく、実に読書向きだとわかった。書見台を使って背筋を伸ばした姿勢で長時間の読書ができるのだ。まるで、寺子屋で素読している子供のようである。

 私は、かなり以前に書見台を購入したものの、ほとんど使っていなかった。体の向きや姿勢を気ままに変えながら読書するには不都合だからである。だが、今回は書見台が有効だった。私の購入したバランスチェアは前後にしか動かず、回転はできない。だから、いったん座ると拘束されたような具合になり、同じ姿勢で読書を続けざるを得ないのだ。

 同じ姿勢で半日以上座り続けて本を読んだのは65年の人生で初体験かもしれない。今後、この椅子で背筋を伸ばして姿勢正しく本を読めば、寺子屋の子供に還るのは無理だとしても、何かが変わるだろうか。

 腰痛が回復すれば、やはり、背もたれのある回転椅子の楽な姿勢に戻りそうな気もする。