『わが闘争』の口直しに新書本2冊2014年08月24日

『ナチズム:ドイツ保守主義の一系譜』(村瀬興雄/中公新書)、『アドルフ・ヒトラー:「独裁者」出現の歴史的背景』(村瀬興雄/中公新書)
 『わが闘争』を読んだ口直し、というか毒消しのような気分で歴史学者の次の中公新書を読んだ。

 『ナチズム:ドイツ保守主義の一系譜』(村瀬興雄/中公新書)
 『アドルフ・ヒトラー:「独裁者」出現の歴史的背景』(村瀬興雄/中公新書)

 2冊とも本棚にあった本で、かなり以前に拾い読みしているはずだが、内容はほとんど憶えていないので、まとめて読みなおした。

 『ナチズム』は1968年、『アドルフ・ヒトラー』は1977年の出版で、著者の村瀬興雄氏は2000年に87歳で亡くなっている。9年の間隔で書かれたこの2冊、タイトルは異なるが扱っているテーマは共通している。ヒトラーの生い立ちから思想形成までを検証し、ナチズム発展の経緯と時代背景を分析している。2冊ともナチスが政権を獲得するまでがメインで、ヒトラーやナチスに関する最も興味深い時期を扱っている。『わが闘争』の記述の検証もあり、2冊まとめて読むと、ナチスが出現した時代の様子が何となく見えてくる。

 村瀬氏はヒトラーに関する様々な研究書を批判的に検討し、ヒトラーを「異常性格者」「愚か者」と見なすのは間違いで、ナチズムを特異なものととらえてはならないとしている。ヒトラーの出現とナチズムの発展には、それを促す歴史背景と時代背景があり、「ドイツ支配勢力」がヒトラーとナチズムを育んだとしている。納得できる分析ではあるが、「ドイツ支配勢力」なるものの実態が実はよく把握できなかった。

 ミュンヘン一揆までのヒトラーは「ドイツ支配勢力」から「プロパガンディスト=宣伝家」と見なされていて、ヒトラー自身もそう自己規定していて政治的指導者を目指していたわけではない、という見方も提示されている。党首という名の宣伝マンに甘んじていたわけだ。真偽のほどはわからない。

 ヒトラーをコントロールできると考えている勢力があったが、やがてそのコントロールがきかなくなった、という説を聞くことはよくある。ヒトラーがいつ頃から自分自身が独裁者になろうと考えていたかはわからない。いつの間にか、時代の波と風によって独裁者にまで押し上げられてしまったのかもしれない。

 凡人の人生でも、自分の意思と判断で成し遂げてきたと思っていることが、単に流れに乗っていただけということはよくある。演じているうちに、演じているのか本気の言動なのか自分でもわからなくなることもある。歴史は人間が作るものだが、個々の人間の役割をどの程度の大きさで評価するのかは容易でない。個人と時代背景のからみ具合は微妙だ。

 タイムマシンで過去に遡り、青年ヒトラーを暗殺して歴史を変えようとする、という小説を読んだ記憶がある。青年ヒトラーを暗殺することで歴史が大きく変わるのか、さほど変わらないのか、もちろん、だれにもわからない。