『20世紀論争史』は論点のサワリを俯瞰する書2021年05月25日

『20世紀論争史:現代思想の源泉』(高橋昌一郎/光文社新書)
 先日読んだ 『反オカルト論』 『フォン・ノイマンの哲学』の著者の新刊新書が本屋の店頭に積んであった。

 『20世紀論争史:現代思想の源泉』(高橋昌一郎/光文社新書)

 教授と助手の対話という手軽に読めそうな体裁に惹かれて購入した。『小説宝石』の連載をまとめた新書で、雑誌のコラムを読む気分で読了した。

 全30章、つまり30の論争を紹介している。「カミュ vs サルトル論争」のようにメディア上で実際に展開された論争もあるが、見解の異なる論者たちの論点整理・紹介が多い。その論点は数学・哲学・物理学・生物学・科学論・技術論と多岐にわたる。私の知らない学者も多く登場し、勉強になった。と言っても論点のサワリをサラリと紹介する本なので、きちんと理解できたわけでない。

 著者紹介によれば高橋昌一郎氏の専門は論理学・科学哲学だそうだ。『反オカルト論』は理系の教授と女性助手の対話という形だったが、本書は文系の教授と女性助手の対話である。各章の冒頭1~2頁はコーヒー談義で、全編で30種のコーヒー蘊蓄を聞かされる。

 理解できないながらもゲーデルの「不完全性定理」はやはり衝撃である。また、民主主義を完全に満足させる社会的決定は不可能と証明したアローの「不可能性定理」も興味深い。論理の限界、社会集団の難しさを感じる。

 物理学者ホイルの話も面白い。定常宇宙論を唱えビッグバンを否定したホイルはSF作家としても有名で、私も『暗黒星雲』『10月1日では遅すぎる』などを大昔に読んだ。学者としては異端の人だと思っていたが、ノーベル物理学賞の可能性がある業績がありながらも主流理論を批判し続けたので受賞を逸したと言われているそうだ。

 本書で20世紀を俯瞰すると、この世には識者たちが侃々諤々を続ける「わからないこと」があふれているとわかる。

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