『父と暮せば』は巧みな仕掛けの二人芝居2021年05月23日

 紀伊国屋サザンシアターでこまつ座の『父と暮せば』(作:井上ひさし、演出:鵜山仁、出演:山崎一、伊勢佳世)を観た。

 広島の原爆をテーマにした二人芝居で、舞台は広島市内の簡素な民家、時間は原爆投下から3年後の1948年7月末、同じセットの全4場で、場ごとに1日が経過する。7月27日から30日までの4日間の父と娘のやり取りで進行する芝居である。

 戯曲を読んだ時にも感じたが、舞台を観てあらためて井上ひさしの作劇術の巧みさに舌を巻いた。原爆をテーマにすると、プロパガンダ風やシリアスの押し売りになるおそれががあるが、この芝居は演劇でなければ活きない手法(父は死者という設定)で原爆被害のさまを笑いと涙で過不足なく見事に描き出している。巧いなあと思う。

 上演パンフレットで山崎一が「二人芝居ってある意味、一番難しいジャンルなのではないかと思うんです。」と語っていて、なるほどと思った。この芝居は、二人のやり取りのなかから二人以外の背後の人物たちが浮かび上がってくるような仕掛けになっている。これは単なる対話劇や会話劇ではなく、まさに二人芝居である。

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