『世界史との対話』は世界史教育改革を提言する高校教師の講義実例 ― 2021年03月17日
ネット検索していて、世界史の高校教師が執筆した『世界史との対話』(全3冊)という本を見つけ、興味がわいた。立ち読みはできないので1冊目のみを購入した。
『世界史との対話:70時間の歴史批評(上)』(小川幸司/地歴社)
この本、私には非常に面白かった。すぐに残りの2冊も注文した。著者は1966年生まれ、東大西洋史学科卒、師から大学院進学を勧められるも高校教師の道を選び、現在(本書刊行時)は長野県の高校の教頭だそうだ。
奥付には「2017年12月15日初版4刷発行」とあり1刷の発行日がない。「あとがき」の日付が2011年10月だから、その直後の発行だろう。
本書は70回の講義という形になっている。上巻は「人類の誕生」から「ジャンヌダルク」までの24講を収録していて、巻末に補論がある。「まえがき」で補論から読むことを勧めている。
補論のタイトルは「世界史教育のありかたを考える:苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」である。著者の高校世界史教育改革論で、網羅主義の“暗記地獄”になっている高校世界史を「病んだ妖怪」と批判している。現状の課題がわかって非常に興味深い。
私は半世紀以上昔の大学受験で世界史を選択していない。いずれ世界史を頭に入れねばと思いつつ、ぼちぼち勉強を始めたのは60歳を過ぎてからだ。2年前に予備校教師の書いた 『世界史B 講義の実況中継(全4冊)』 という本を通読したとき、語り口の面白さに惹かれたものの「受験生でなくてよかった」と安堵した。高校世界史が扱う膨大な事項を頭に留めるのは容易ではない。
著者は、網羅的に歴史の流れと事件を記述することを否定し、歴史を素材に「人間のありかた」「政治のありかた」「自分の生き方」を考える「歴史批評」を提言している。そんな世界史教育改革論をふまえた講義の実例が本書である。
講義では、それぞれの時代の世界史の材料やテーマを提示し、歴史研究者たちの知見を紹介し、現代社会の視点で歴史を検討している。つまり歴史批評であり世界史との対話である。歴史研究の現状も垣間見ることができ、読み応えがある。
本書の第18講「元寇は日本に何をもたらしたか」は、モンゴル帝国の構造をふまえて世界史視点で元寇を検討し、強化された神国日本意識がその後の歴史にもたらした影響にも言及している。やや些末なことだが、この講義では「蒙古襲来絵詞」が江戸時代に改竄されたと説明している。私が読んだ 『蒙古襲来と神風』(服部英雄/中公新書/2017.11) ではこの改竄を否定していた。定説はどうなっているのだろうか。
『世界史との対話:70時間の歴史批評(上)』(小川幸司/地歴社)
この本、私には非常に面白かった。すぐに残りの2冊も注文した。著者は1966年生まれ、東大西洋史学科卒、師から大学院進学を勧められるも高校教師の道を選び、現在(本書刊行時)は長野県の高校の教頭だそうだ。
奥付には「2017年12月15日初版4刷発行」とあり1刷の発行日がない。「あとがき」の日付が2011年10月だから、その直後の発行だろう。
本書は70回の講義という形になっている。上巻は「人類の誕生」から「ジャンヌダルク」までの24講を収録していて、巻末に補論がある。「まえがき」で補論から読むことを勧めている。
補論のタイトルは「世界史教育のありかたを考える:苦役への道は世界史教師の善意でしきつめられている」である。著者の高校世界史教育改革論で、網羅主義の“暗記地獄”になっている高校世界史を「病んだ妖怪」と批判している。現状の課題がわかって非常に興味深い。
私は半世紀以上昔の大学受験で世界史を選択していない。いずれ世界史を頭に入れねばと思いつつ、ぼちぼち勉強を始めたのは60歳を過ぎてからだ。2年前に予備校教師の書いた 『世界史B 講義の実況中継(全4冊)』 という本を通読したとき、語り口の面白さに惹かれたものの「受験生でなくてよかった」と安堵した。高校世界史が扱う膨大な事項を頭に留めるのは容易ではない。
著者は、網羅的に歴史の流れと事件を記述することを否定し、歴史を素材に「人間のありかた」「政治のありかた」「自分の生き方」を考える「歴史批評」を提言している。そんな世界史教育改革論をふまえた講義の実例が本書である。
講義では、それぞれの時代の世界史の材料やテーマを提示し、歴史研究者たちの知見を紹介し、現代社会の視点で歴史を検討している。つまり歴史批評であり世界史との対話である。歴史研究の現状も垣間見ることができ、読み応えがある。
本書の第18講「元寇は日本に何をもたらしたか」は、モンゴル帝国の構造をふまえて世界史視点で元寇を検討し、強化された神国日本意識がその後の歴史にもたらした影響にも言及している。やや些末なことだが、この講義では「蒙古襲来絵詞」が江戸時代に改竄されたと説明している。私が読んだ 『蒙古襲来と神風』(服部英雄/中公新書/2017.11) ではこの改竄を否定していた。定説はどうなっているのだろうか。
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