『ジャックポット』(筒井康隆)は現世から彼岸に至る短篇集2021年03月05日

『ジャックポット』(筒井康隆/新潮社/2021.2)
 筒井康隆氏の最新短篇集が出たので、早速入手して読んだ。

 『ジャックポット』(筒井康隆/新潮社/2021.2)

 前の短篇集 『世界はゴ冗談』 が出たのが2015年だから6年ぶりの刊行で、14篇が収録されている。86歳の現役作家の最新短篇集である。

 収録作の半分ぐらいは雑誌発表時に読んでいるが、単行本になったのを機にあらためて全作品を通読した。奔放な妄想が留まる所を知らない暴走老人文学とも言える奇怪な短篇のオンパレードで、読みながら脳内マッサージを受けている気分になる。

 この短篇集の配列は、巻頭の「漸然山脈」(「文學界」2017.7)から巻末の「川のほとり」(「新潮」2021.2)まで発表年月順になっている。単純な配列に見えるが、この配列が絶妙だ。

 2017年から2021年の間には二つの大きな事象があった。一つは言わずと知れた2020年来のコロナ禍である。もう一つは筒井康隆氏の一人息子・伸輔氏の逝去である。画家・筒井伸輔氏は2020年2月、食道癌で亡くなった。享年51歳、両親や妻子を残した早逝だった。親の悲しみは察して余りある。

 本書巻頭の「漸然山脈」は南の極から北の極に至る狂騒の彷徨を歌いあげる世界破滅の序曲のようであり、続く短篇群は世界の終わりに人生をパノラマ視するかのごとく想念が時空をかけめぐる。そして、終末の具体的な形としてコロナがせり上がってきて、息子の死が影を落とす。フィナーレは、静謐な彼岸での息子との対話になる。――『ジャックポット』はそんな短篇集である。