精緻な挿絵満載の『絵で見る十字軍物語』で読書の追体験2021年03月11日

『絵で見る十字軍物語』(塩野七生、絵:ギュスターヴ・ドレ/新潮社)
 先月、 『十字軍物語(全4冊)』(塩野七生/新潮文庫) を読了したとき、気がかりだった本がある。文庫版の「まえがき」で言及されていた 『絵で見る十字軍物語』である。単行本の『十字軍物語(全3巻)』刊行時に、その「序曲」として出たビジュアル本である。それを古書で入手して読了した。

 『絵で見る十字軍物語』(塩野七生、絵:ギュスターヴ・ドレ/新潮社)

 19世紀前半に出版された『十字軍の歴史』(ミショー)に掲載されたドレの挿絵を集成した本である。小口木版という手法で描かれた精緻な挿絵98点が掲載されている。見開きの左頁全体が1枚の挿絵、右頁の上段がその絵に関する地図、下段が情景の簡単な解説になっている。

 読み終えた『十字軍物語』の余韻を辿る気分でこの「絵本」をゆっくりと繰って行くのは至福の時間である。挿絵によって『十字軍物語』のアレコレの場面が浮かんでくる。意外だったのは、あの「物語」を読んだ時とは別の感慨がわく絵も多いことだ。

 戦闘場面の絵が多いのは当然だが、戦闘後の死屍累々の場面、困難な行軍で倒れていく人々を描いた場面などにも迫力があり、読書時にはあまり感じなかった悲惨さが伝わってくる。また、十字軍の「現場」ではなく銃後の情景にも惹かれた。女性や子供たちの募金活動、歌で送られて出陣する人々、帰郷した老兵士の物語に聴き入る子供たちの様子も印象深い。絵は感性に訴える表現だと、あらためて認識した。