井上ひさしの初期作品『日本人のへそ』を観た2021年03月25日

 紀伊国屋サザンシアターでこまつ座の井上ひさし芝居『日本人のへそ』(演出:栗山民也、出演:井上芳雄、小池栄子、山西惇、朝海ひかる、他)を観た。

 戯曲は読んでいるが舞台を観るのは初めてである。2時間弱の第一幕と1時間弱の第二幕という構成で、第一幕は合唱が多い音楽劇で突然の事件で幕となる。第二幕に合唱はないがギャグが頻発し、事件の解決編という趣からどんでん返しを繰り返す。

 当然ながら、舞台を観ると戯曲を読んだだけではわからない面白さを感得できる。この芝居には、井上ひさしが抱いていたさまざまな「想い」と「仕掛け」が過剰に詰め込まれている。「騙す」や「演ずる」を多層化・相対化して「真実」と等価と思わせてしまうエネルギーを感じた。真実を明らかにするためのどんでん返しではなく、どんでん返しを自己目的化してもいいではないかという居直りも感じる。

 『日本人のへそ』の初演は1969年2月、あの『表裏源内蛙合戦』より早い。当時大学生だった私は、唐十郎の状況劇場に魅せられ、紅テントに通いながらアングラ系の芝居を観ていた。『表裏源内蛙合戦』という新劇ともアングラとも違う芝居が登場したと聞き、戯曲は読んだもののさほど食指は動かず、舞台を観たのは後年である。

 1969年当時、大学生の私が『日本人のへそ』を観ていたらどう感じただろうと想像してみた。多少の違和感を抱きつつも、面白いとは思っただろう。共感したか反発したか黙殺したか、70歳を過ぎたいまでは何ともわからない。この芝居に1969年頃のアレコレが反映されているのは確かだが…