若い日本人のキルギス冒険譚を読んだ ― 2026年06月25日
来月キルギスへ行くのでネット書店で「キルギス」を検索すると『草原の国キルギスで勇者になった男』という本が出てきた。キルギスで格闘家になった話かと思ったが、オビに高野秀行氏が「こんなヘンでこんなに凄い冒険家は見たことがない」と推薦している。ヘンで凄い辺境作家・高野氏がヘンで凄いというので購入、読了した。
『草原の国キルギスで勇者になった男』(春間豪太郎/新潮社/2020.10)
オビで謳っている通り「ヘンで凄い新時代の冒険譚」だった。とても面白い。著者は1990年生まれの「冒険家」である。
21世紀の現代、秘境とされる地域は減少し、探検や冒険の領域は狭まっている。そんな時代にも「冒険家」が存在することを本書で納得した。
家庭や社会との違和感を抱き続けていた著者は、大学時代にフィリピンで消息不明になった友人の捜索・救出で「冒険」に目覚め、アフリカ冒険などを通じて新時代の冒険家になっていく。
著者は自身の冒険をリアルRPG(ロールプレイングゲーム)と名付けている。ロバと自作の荷車でモロッコ1000Km野宿旅をしたとき、ゲームの世界に迷い込んだように感じたそうだ。リアルRGPとは、言語、交渉術など各種スキルをレベルアップさせ、さまざまなアイテムを入手し、仲間を得ながら課題を段階的にクリアしていく冒険である。ゲームの世界なら落命してもリトライできるが、リアルRPGではそうはいかない。
本書のキルギス冒険(2017年)で、著者は自身にいくつかの課題を課している。「馬を入手して乗馬で旅する」「羊を連れて雪山を越える」などのステージが課題だ。そんな課題の意義はよくわからないが、著者の意気込みには説得力がある。
冒険の過程でスキルアップを図るのがリアルRGPだが、事前準備も周到だ。元々、言語、プログラミング、交渉などの能力が高い著者は、出発前に医療技術(船舶衛生管理者)や馬に関する知識も習得している。バックパックには、野宿のためのテントや寝袋の他に、スマホやドローンなどの電子機器から医療器具までさまざまなアイテムを詰め込んでいる。
キルギスに入国した著者は現地で馬を購入する。このとき乗馬経験はなかったそうだ。次のように述べている。
「おれには乗馬経験がない。なぜなら、事前に習得してしまうと今回の計画では不確定要素がほとんどなくなり、冒険ではなくなってしまうと考えたからだ。」
ヘンにストイックな冒険家である。著者は、これまでの冒険の経験から善人と悪人の区別がつくそうだ。よくしてくれそうな人に近づき、危害を加えそうな人を避ける能力があると自認している。キルギスの旅の途中、悪人と思われる人物からお茶に誘われる。断ろうと思ったが、自分の識別能力の精度を確かめるために誘いに乗る。その人物はやはり悪人で、スマホを盗られそうになる。
本書で驚いたのは「誘拐婚」に出くわした話だ。私がキルギスの誘拐婚を知ったのは13年前、『ナショナルジオグラフィック 日本語版』(2013年7月号)を読んだときだ。日本人女性カメラマンによる「キルギス 誘拐婚の現実」という記事は衝撃的だった。女性を連れ去り花婿一家が総出で説得して強引に結婚させる「誘拐婚」が現在もあるという。もちろん法律では禁じられている。
著者の冒険は野宿旅だが、現地の人の家に泊めてもらうことが多い。ある集落で青年に声をかけると歓待され、若い婚約者を紹介される。青年は「街で出会って、キルギスの伝統的なやり方で口説いたんだ」と話す。それは誘拐婚だった。その日は、婚約者の両親が初めて訪問してくるイベントの日だった。著者は婚約者から、この結婚を望んでいないと聞かされる。両親が訪ねて来たら結婚が確定するので来てほしくないと思っている。だが、すでに諦めているという。結局、著者は結婚が確定する食事会に同席することになる。
本書によって、13年前に読んだ『ナショナルジオグラフィック』の記事を思い出し、古い雑誌を探し出して読み返した。「誘拐婚が伝統というのは間違いで、ソ連時代になってからの事象を伝統と思い込んでいる人が増えた」との学者の指摘を紹介していた。
『草原の国キルギスで勇者になった男』(春間豪太郎/新潮社/2020.10)
オビで謳っている通り「ヘンで凄い新時代の冒険譚」だった。とても面白い。著者は1990年生まれの「冒険家」である。
21世紀の現代、秘境とされる地域は減少し、探検や冒険の領域は狭まっている。そんな時代にも「冒険家」が存在することを本書で納得した。
家庭や社会との違和感を抱き続けていた著者は、大学時代にフィリピンで消息不明になった友人の捜索・救出で「冒険」に目覚め、アフリカ冒険などを通じて新時代の冒険家になっていく。
著者は自身の冒険をリアルRPG(ロールプレイングゲーム)と名付けている。ロバと自作の荷車でモロッコ1000Km野宿旅をしたとき、ゲームの世界に迷い込んだように感じたそうだ。リアルRGPとは、言語、交渉術など各種スキルをレベルアップさせ、さまざまなアイテムを入手し、仲間を得ながら課題を段階的にクリアしていく冒険である。ゲームの世界なら落命してもリトライできるが、リアルRPGではそうはいかない。
本書のキルギス冒険(2017年)で、著者は自身にいくつかの課題を課している。「馬を入手して乗馬で旅する」「羊を連れて雪山を越える」などのステージが課題だ。そんな課題の意義はよくわからないが、著者の意気込みには説得力がある。
冒険の過程でスキルアップを図るのがリアルRGPだが、事前準備も周到だ。元々、言語、プログラミング、交渉などの能力が高い著者は、出発前に医療技術(船舶衛生管理者)や馬に関する知識も習得している。バックパックには、野宿のためのテントや寝袋の他に、スマホやドローンなどの電子機器から医療器具までさまざまなアイテムを詰め込んでいる。
キルギスに入国した著者は現地で馬を購入する。このとき乗馬経験はなかったそうだ。次のように述べている。
「おれには乗馬経験がない。なぜなら、事前に習得してしまうと今回の計画では不確定要素がほとんどなくなり、冒険ではなくなってしまうと考えたからだ。」
ヘンにストイックな冒険家である。著者は、これまでの冒険の経験から善人と悪人の区別がつくそうだ。よくしてくれそうな人に近づき、危害を加えそうな人を避ける能力があると自認している。キルギスの旅の途中、悪人と思われる人物からお茶に誘われる。断ろうと思ったが、自分の識別能力の精度を確かめるために誘いに乗る。その人物はやはり悪人で、スマホを盗られそうになる。
本書で驚いたのは「誘拐婚」に出くわした話だ。私がキルギスの誘拐婚を知ったのは13年前、『ナショナルジオグラフィック 日本語版』(2013年7月号)を読んだときだ。日本人女性カメラマンによる「キルギス 誘拐婚の現実」という記事は衝撃的だった。女性を連れ去り花婿一家が総出で説得して強引に結婚させる「誘拐婚」が現在もあるという。もちろん法律では禁じられている。
著者の冒険は野宿旅だが、現地の人の家に泊めてもらうことが多い。ある集落で青年に声をかけると歓待され、若い婚約者を紹介される。青年は「街で出会って、キルギスの伝統的なやり方で口説いたんだ」と話す。それは誘拐婚だった。その日は、婚約者の両親が初めて訪問してくるイベントの日だった。著者は婚約者から、この結婚を望んでいないと聞かされる。両親が訪ねて来たら結婚が確定するので来てほしくないと思っている。だが、すでに諦めているという。結局、著者は結婚が確定する食事会に同席することになる。
本書によって、13年前に読んだ『ナショナルジオグラフィック』の記事を思い出し、古い雑誌を探し出して読み返した。「誘拐婚が伝統というのは間違いで、ソ連時代になってからの事象を伝統と思い込んでいる人が増えた」との学者の指摘を紹介していた。

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