『酒を主食とする人々』は常識を覆す驚きのレポート ― 2025年02月28日
ユニークな「辺境作家」高野秀行氏の新刊を読んだ。とても面白い。
『酒を主食とする人々:エチオピアの科学的秘境を旅する』(高野秀行/本の雑誌社/2025.1)
多数の著作がある高野氏を、私は一昨年の『イラク水滸伝』で初めて知った。その後『イスラム飲酒紀行』で高野氏の酒好きを確認した。本書は、酒を好む高野氏によるエチオピアの秘境に住む驚異の人々の探訪記である。
酒を主食とする人々については、新潟大学の研究者・砂野唯氏が2019年刊行の『酒を食べる エチオピア・デラシャを事例にして』で報告している。だが、それ以外には報道も情報もないらしい。高野氏は砂野氏の本でエチオピアのデラシャという秘境を知り、いつか訪ねたいと思っていたそうだ。
デラシャへの旅が実現したのは、TBSの「クレイジージャーニー」という番組で高野氏の探訪を取り上げることになったからである。テレビ局のスタッフ2人と現地のコーディネーターやガイドを伴っての旅は2週間、秘境探検にしては短い。被写体の高野氏が、テレビカメラで撮影しながらの旅はそれが限度と判断したのだ。
2023年10月、一行はエチオピアに旅立った。デラシャ探訪の前にコンソという地域も訪ねる。酒が主食という点ではデラシャの方がコンソよりディープで、コンソは「前菜」という位置づけだった。だが、2023年末に放映された番組は、映像上の諸事情からデラシャ探訪をカットし、「前菜」のコンソ探訪だけの内容になった。本書を読めば諸事情が何となくわかる。
当初、高野氏はこの探訪記だけを1冊の本にまとめる予定はなかった。肝心のデラシャ探訪の記録を残すために本書を執筆したようだ。
紆余曲折を経てたどり着いたデラシャには、固形物をほとんど食べずパルショータという酒を主食にする人が本当に暮らしていた。アルコール度がビールほどのドロドロした濁り酒を朝昼晩に飲むそうだ。小さな子供でも飲む。表紙写真の子供が手にしているペットボトルはお弁当の酒である。そんなに飲んでも普通に生活し、仕事もしている。驚きである。
なぜ、こんな生活形態が生まれたか。本書の推測は以下の通りだ。パルショータはソルガムという植物から作る。デラシャの人々の先祖は遊牧民に圧迫され、ソルガムしか生育しない山岳の乾燥地帯に追いやられた。ソルガムだけでは栄養が足りないが、発酵させて酒にすれば栄養がまかなえる。だから酒が主食になった。
酒を主食にする人々は、みんな頑強で体格もいいそうだ。現地の病院で医者に取材しても、肝臓疾患、高血圧、糖尿病などが多いというデータはない。酒を主食にする人々の健康状態は他の人々より良好だ。病院では入院患者も妊婦もパルショータを飲んでいる。この世の常識が覆され、頭がクラクラしてくる話である。
パルショータだけでなく、高野氏ならでは現地の人々とのの交流譚も面白い。
『酒を主食とする人々:エチオピアの科学的秘境を旅する』(高野秀行/本の雑誌社/2025.1)
多数の著作がある高野氏を、私は一昨年の『イラク水滸伝』で初めて知った。その後『イスラム飲酒紀行』で高野氏の酒好きを確認した。本書は、酒を好む高野氏によるエチオピアの秘境に住む驚異の人々の探訪記である。
酒を主食とする人々については、新潟大学の研究者・砂野唯氏が2019年刊行の『酒を食べる エチオピア・デラシャを事例にして』で報告している。だが、それ以外には報道も情報もないらしい。高野氏は砂野氏の本でエチオピアのデラシャという秘境を知り、いつか訪ねたいと思っていたそうだ。
デラシャへの旅が実現したのは、TBSの「クレイジージャーニー」という番組で高野氏の探訪を取り上げることになったからである。テレビ局のスタッフ2人と現地のコーディネーターやガイドを伴っての旅は2週間、秘境探検にしては短い。被写体の高野氏が、テレビカメラで撮影しながらの旅はそれが限度と判断したのだ。
2023年10月、一行はエチオピアに旅立った。デラシャ探訪の前にコンソという地域も訪ねる。酒が主食という点ではデラシャの方がコンソよりディープで、コンソは「前菜」という位置づけだった。だが、2023年末に放映された番組は、映像上の諸事情からデラシャ探訪をカットし、「前菜」のコンソ探訪だけの内容になった。本書を読めば諸事情が何となくわかる。
当初、高野氏はこの探訪記だけを1冊の本にまとめる予定はなかった。肝心のデラシャ探訪の記録を残すために本書を執筆したようだ。
紆余曲折を経てたどり着いたデラシャには、固形物をほとんど食べずパルショータという酒を主食にする人が本当に暮らしていた。アルコール度がビールほどのドロドロした濁り酒を朝昼晩に飲むそうだ。小さな子供でも飲む。表紙写真の子供が手にしているペットボトルはお弁当の酒である。そんなに飲んでも普通に生活し、仕事もしている。驚きである。
なぜ、こんな生活形態が生まれたか。本書の推測は以下の通りだ。パルショータはソルガムという植物から作る。デラシャの人々の先祖は遊牧民に圧迫され、ソルガムしか生育しない山岳の乾燥地帯に追いやられた。ソルガムだけでは栄養が足りないが、発酵させて酒にすれば栄養がまかなえる。だから酒が主食になった。
酒を主食にする人々は、みんな頑強で体格もいいそうだ。現地の病院で医者に取材しても、肝臓疾患、高血圧、糖尿病などが多いというデータはない。酒を主食にする人々の健康状態は他の人々より良好だ。病院では入院患者も妊婦もパルショータを飲んでいる。この世の常識が覆され、頭がクラクラしてくる話である。
パルショータだけでなく、高野氏ならでは現地の人々とのの交流譚も面白い。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2025/02/28/9757664/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。