往時のドイツ社会の空気を伝える『ナチズムの時代』2023年07月09日

『ナチズムの時代』(山本秀行/世界史リブレット/山川出版社)
 『ナチズムの時代』(山本秀行/世界史リブレット/山川出版社)

 久々に読んだナチス物『ナチスと隕石仏像』巻末の参考文献に本書があった。かなり以前に購入したまま未読の棚に積んでいたのを思い出した。1998年12月に出た本の13刷(2017年6月)だ。思い出したのを機に読了した。短時間で読める小冊子である。

 ナチスが戦争国家を築いていく過程を「領土拡大」と「人種主義」の視点にしぼって簡潔に解説している。当時のドイツ社会の雰囲気が伝わてくる。

 「ナチズムの時代」とは言え、ナチスを支持した人々の熱狂がいつまでも持続したわけではない。人間は熱しやすく冷めやすい。ヒトラー政権成立から1年後には人々の期待は幻滅に変わった。失業者は減らず、物価は上昇し、ナチ党幹部のおごりや腐敗への苦情や不満がつのる。

 そんな不満をかわしたのが「ヒトラー神話」だったという分析が面白い。著者は次のように述べている。

 「ナチ組織の腐敗、幹部の目にあまる増長ぶりに、国民は、そうした幹部をヒトラーが押さえつけてくれることを期待したのである。いってみればナチ党への不満が、逆にヒトラーの人気を押しあげているのである。」

 オーストリア併合に関する次の記述には少し驚いた。

 「オーストリアの併合も、四カ年計画の責任者ゲーリングが、資源と労働力を求めて積極的に推進したものであった。ヒトラー自身は、オーストリア併合には消極的であったといわれる。」

 ヒトラーが消極的だったという説を読んだ記憶はない(読んだ本の大半の内容は失念しているが)。比較的新しい本『ヒトラー』(芝健介)『ヒトラー(下)』(カーショー) のオーストリア併合の箇所を読み返してみたが、ヒトラーが消極的との印象は受けなかった。今後の勉強課題としたい。

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