ついに完結した『プリニウス』全12巻を一気読み2023年07月23日

『プリニウス(Ⅰ~XII)』(ヤマザキマリ、とり・みき/新潮社)
 『プリニウス(Ⅰ~XII)』(ヤマザキマリ、とり・みき/新潮社)

 ヤマザキマリ、とり・みき合作マンガ『プリニウス』が全12巻で完結した。雑誌連載開始は2013年12月、10年がかりの大作である。私は単行本が出るたびに購入して読んでいたが、7冊目以降は購入するだけで読むのをやめた。年に1~2冊のペースだと、前巻までの内容を忘れてしまう。完結したら全巻をまとめ読みしようと思ったのだ。

 で、このたび、めでたく全12巻を1日半で一気に読んだ。作者が10年かけてコツコツ描いてきた作品を短時間で読んでしまい、作者に申し訳ない気もする。

 マンガを読む速度は、絵を飛ばし見するかジックリ見るかでかなり異なる。この作品は古代ローマの情景や動植物を博物誌的にていねいに描き込んでいる。そんな絵を目に留めながら読み進めるよう心掛けたが、やはり飛ばし読みになったかもしれない。

 私は、4年前の小松左京展記念イベントでヤマザキマリ×とり・みき対談を実見している。ピランデルロの話が中心の対談だった。小松左京ファンの私は、この二人と私の関心領域に重なりあう部分が多いのでうれしかった。

 と言っても、私はプリニウスの博物誌は読んでいない。数年前に澁澤龍彦の『私のプリニウス』で博物誌のサワリ(奇想)を知っただけだ。作者二人は、プリニウスを小松左京や水木しげるに通じる人だとしている。私の趣味に合致する興味深い人物だ。

 プリニウスの伝記的史料は少ないそうだ。だから、作者は想像力の翼を広げて魅力的なプリニウス行状記を紡ぎあげた。プリニウスの博物誌には実在しそうにない妖怪的な人種や動植物が登場する。この行状記にはそんな怪しい生物がチラチラと顔を出し、虚実皮膜の面白さをかもし出している。

 私がこの作品を楽しめたのは、小松左京や水木しげるが好きだったからだけではなく、古代ローマ史ファンだからである。塩野七生ギボンのおかげでローマ史に興味がわき、この10年程はローマ史関連の本をボチボチ読んできた。

 この作品にはネロをはじめ多くの実在人物が登場し、史実をベースにした歴史マンガがプリニウス行状記と交差しつつ並行に展開する。ネロは最近になって再評価されてきた皇帝だ。このマンガのネロ像には説得力がある。私にはウェスパシアヌス帝が魅力的だった。公衆便所に課税したこの皇帝の具体的なイメージをつかめた気がする。

 そのほかにも、ミトラ教、パルミュラの仏教徒など興味深い事項が随所に埋め込まれている。とりあえずは1日半で読了したこの作品、これからは、各巻を随時引っ張り出して、飴玉をしゃぶるように絵とネームをジックリ鑑賞したい。画像のなかには私が読み解けていないものが山ほど残っているに違いない。