映画原作の芝居『パラサイト』を観て映画『天国と地獄』を想起2023年06月12日

 新宿の歌舞伎町タワーにできたシアターミラノ座のオープニング公演『パラサイト』(台本・演出:鄭義信、出演:古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ、他)を観た。映画『パラサイト 半地下の家族』が原作である。あの有名映画をどう舞台化するのか興味があった。

 思った以上に映画に忠実な芝居だった。格差社会や家族の絆に関しては映画よりメッセージ性が強い。映画以上にコミカルなシーンも多い。

 舞台では日本の関西の話にしている。時代は1995年、阪神淡路大震災の年だ。映画で「半地下」だった住宅は、高い堤防の脇の川床より低い猥雑な地域の零細な家屋になっている。立体的な舞台装置は家族の空間だけでなく地域環境も表現している。

 この芝居で関心したのは舞台装置である。きちんと作り込んだ壮大な舞台装置だ。場面は「零細な家屋」「金持ちの邸宅」「邸宅の地下室」の三つ、それが回り舞台でスムーズに転換する。大劇場にふさわしい仕掛けである。

 金持ちの邸宅は高台にあり、背景の巨大カーテンを上げると神戸の町をはるかに見下ろせる。見下ろす町の映像に迫力がある。低地に住む貧困層と高台に住む富裕層という対比を鮮やかに表現している。黒澤明の古い映画『天国と地獄』を想起した。

 映画では半地下の家は洪水被害に合う。舞台では震災で焼失する。高台の邸宅は揺れも少なく殆ど被害を受けない(これは実話に基づいているらしい)。邸宅の巨大なガラス戸からは、あちこちから煙が上がる神戸の町を俯瞰できる。壮観である。

 終盤の金持ちの息子の誕生パーティ・シーン(このパーティは惨劇の場になる)は、映画ではガーデン・パーティだった。舞台では邸宅の室内パーティだ。大人たちが仮装してうかれている背景は、巨大なガラス戸から見下す神戸の町である。その町は依然として燃え上がっている。燃える町とパーティ、演劇らしい印象的なシーンだ。このシーンは映画を超えていると思った。

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