アレクサンドロスを描いた『文明の道①』は番組とはトーンが異なる2023年05月07日

『文明の道① アレクサンドロスの時代』(森谷公俊・他/NHK出版/2003.4)、TV番組の第1集
 20年前のテレビ番組「文明の道 第1集:アレクサンドロス大王 ペルシャ帝国への挑戦」をオンデマンドで観て、この番組の書籍版を読んだ。

 『文明の道① アレクサンドロスの時代』(森谷公俊・他/NHK出版/2003.4)

 実は、先日読んだ『アレクサンドロスの征服と神話 』(森谷公俊)の冒頭で著者はこの番組に言及している。アレクサンドロスを多大な犠牲も顧みずに突き進む侵略者とみなす見方を示したうえで、次のように述べている。

 「これとはまったく対照的に、アレクサンドロスを、諸民族・諸文明の共存と融合を目指した偉大な先駆者として描く見方もある。たとえば、2003年4月20日に放送された、NHKスペシャル『文明の道』がそうだ。第1集のこの日は「アレクサンドロスの時代」と題し、大王の東方遠征とオリエント世界のかかわりを主題としていた。」

 アレクサンドロスの否定面も見据える森谷氏は、この番組を西欧中心的な見方として批判しているようにも見える。だが、森谷氏は番組のテロップで「資料提供者」の筆頭に氏名が出ている。書籍版ではメイン記事の監修者であり、記事も寄稿している。

 要は、番組と書籍ではトーンが少し異なるのだ。番組はアレクサンドロスの肯定的な面を中心に取り上げている。だが、書籍はより幅広い視点でアレクサンドロスを相対化している。50分という枠の制約もあるだろうが、番組はあくまで番組スタッフが制作したものである、森谷氏は単に資料を提供しただけかもしれない。

 『文明の道』という番組は「文明の衝突」へのアンチテーゼとして、対立の克服、共存・協調を探るのがテーマのようだ。そのコンセプトに沿って、アレクサンドロスがオリエント世界との融合や交流を図った面を強調した内容になったのだと思う。

 書籍は単に番組を活字化しただけではなく、多くの研究者の多様な記事を収録している。番組より深くて広い。本書収録の記事で森谷氏は次のように述べている。

 「アレクサンドロスは東西文明の融合という大理想をかかげて東方遠征を行った――。これは、かつて幾度となく繰り返された常套句である。高邁な理念を追及しながら、志なかばで倒れた若きアレクサンドロス。(…)このような大王像は、近代の研究者が作り上げた虚像にすぎず、実証的な根拠を欠いたものである。(…)結局アレクサンドロスの帝国は、あくまでも彼一人の帝国であった。(…)そこでは大王への忠誠心だけが体制の絆となる。それは「アレクサンドロスただ一人の帝国」と呼ぶしかない国家であった。」

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