「文明の道」最終回と最終巻で考えたこと2023年05月17日

『文明の道⑤ モンゴル帝国』(杉山正明・弓場起知・他/NHK出版/2004.2)、「第8集 クビライの夢・ユーラシア帝国の完成」
 20年前のテレビ番組「文明の道」の第1集から第7集までをオンデマンドで観て、番組に対応した書籍『文明の道』の1~4巻を読了した。残るのは最終回(第8集)と最終巻(第5巻)である。オンデマンドには、なぜか最終回がない。最終巻は2年前に読んでいたのを、すっかり失念していた。もちろん、内容もあまり憶えていない。

 さて、どうしようかと思案しているとき、オンデマンド(有料)で提供していない最終回がYoutubeやニコニコ動画で視聴できるのに気づいた。もちろん無料だ。どうなっているのだ。

 で、最終回の「第8集 クビライの夢・ユーラシア帝国の完成」をYoutubeで観て、書籍『文明の道』第5巻を再読することにした。

 『文明の道⑤ モンゴル帝国』(杉山正明・弓場起知・他/NHK出版/2004.2)

 2年前に読んだ本の再読である。忘れている事項が多いものの、読みながら記憶がよみがえってくることもあり、初読よりは読みやすい。

 テーマはクビライの時代のモンゴル帝国である。チンギス・カンの遠征で始まるモンゴルは巨大な帝国を築き、5代目の皇帝クビライは南宋を滅ぼし、海路をひらく。

 クビライ以前のモンゴル帝国は「陸の帝国」だったが、クビライ以降は「陸と海の帝国」となり、海上交易も盛んになる。「文明の道」最終回にふさわしく、ユーラシア大陸の東西にまたがる壮大な文明交流のイメージが浮かび上がる。

 書籍の内容は番組より詳しい。写真や図表も多く、番組で流れた映像の大半を書籍で確認できる。「陸と海の帝国」の姿を把握するには書籍を読むだけで十分のように思える。だが、番組も観たくなる。なぜだろうか。

 番組を観て書籍を読み、あらためて感じるのは、テレビ番組は物事を単純化しがちだということだ。そこに映像メディアの魅力があるとも言える。複雑でゴチャゴチャした事象を思い切りよくスパッと切り取り、わかりやすく映像で伝える――それは巧みな技術だと思う。

 書籍は文章表現によって、ゴチャゴチャをゴチャゴチャのまま伝えることができる。「あれか? これか? それとも?」「あれも これも それだけでなく…」といった具合である。記述が詳細になることで、多面的で複雑になる。わかりやすくはない。

 テレビ番組だと、ゴチャゴチャした歴史をすっきりしたイメージで捉えられる――あるいは、捉えた気分になれる。そのイメージはデフォルメされている可能性もあるが、記憶に焼き付きやすい。

 世界史の教師が受験生に「歴史は細かく憶えて、大きくつかむ」とアドバイスしているのを読んだことがある。受験生に限らず、歴史を把握する要諦だと思う。細かい知識をアレコレ仕入れても、大きな流れのなかでの位置づけや意味を理解しなければ、わかったとは言えない。「すっきりと単純化したイメージ」を把むのは大切である。だが「大きな流れ」にも多様な見方があるのが曲者だ。そこに歴史の面白さがある。

 要は、テレビ番組で仕入れた「すっきりしたイメージ」は、自分自身でくり返し検証し、更新しなけらば咀嚼できない。「複雑さ」に裏打ちされた「単純さ」を把まねばならないということである。やっかいな話だ。

 今回の「文明の道」シリーズに関しては、書籍で知識を仕入れたうえで、番組を観ながら反芻・整理するのが正解かもしれない。私は観てから読んだのだが……。