ギリシア以前を知るために『古代オリエント全史』を読んだ2023年04月19日

『古代オリエント全史』(小林登志子/中公新書/2022.11)
 ギリシアとローマを語る『集中講義! ギリシア・ローマ』を読んで、ギリシア文明はオリエント文明の辺境だというイメージが湧いた。だが、肝心のオリエント文明の姿が私には不明瞭である。そんな気分のとき、半年前に出た次の新書を書店で見つけ、手頃な本だと思って購入・読了した。

 『古代オリエント全史』(小林登志子/中公新書/2022.11)

 本書を読む前に、基礎知識確認のため山川の教科書『詳説世界史B』の「古代オリエントの世界」という項目(約11頁)を読んだ。この教科書は以前に一度読んでいるはずだが、失念している事柄が多い。

 高校世界史で11頁の歴史が本書では300頁弱に膨らんでいる。私には未知の地名や人名が頻出する。それでも何とか読了できたのは、充実した索引のおかげだ。数頁前に読んだ固有名詞も混乱するわが頭には、索引を参照しながらの読書が有益だった。

 ギリシア文明の淵源を確かめたいという動機で読んだ本書、私の期待通りの内容で勉強になった。オリエントこそが文明がはじまった場所だと、あらためて確認できた。

 オリエントとは、現在のエジプト、イスラエル、ヨルダン、レバノン、シリア、トルコ、イラク、イランのあたりである。著者は古代オリエントをメソポタミア、シリア、アナトリア(小アジア)、エジプト、イランの五地域にわけて解説している。

 この五地域を「本流のメソポタミア」「草刈り場のシリア」「最古印欧語族のアナトリア」「偉大な傍流エジプト」「新参の大統一者イラン」とメリハリをつけて歴史をたどっている。理解しやすい。

 古代オリエント史はアレクサンドロスの東征で終わる。興味深いのは、そのアレクサンドロスの評価だ。著者は次のように述べている。

 「古代オリエント世界の住人にとってのアレクサンドロスは外国からの侵入者であり、戦場での戦闘行為だけでなく、住民に対しての殺戮や掠奪などもおこなっている。アレクサンドロスの都市建設はギリシア人のためであり、オリエントの住民のためではなかった。」

 また、欧州共通教科書のアレクサンドロス評価に対しては「征服を過大に評価、正当化することで、現代にいたるまでユーロッパ勢力のアジア侵攻を正当化する歴史観に、本書は与しない」と批判的だ。

 やはり、文明化されたオリエントにとってギリシアは西の果ての野蛮な脅威だったように思える。ペロポネス戦争で疲弊したギリシア人のなかにはペルシアの傭兵になる者も多かったそうだ。

 残念なのは、オリエント世界(その中心のメソポタミア)にヘロドトスや司馬遷がいなかったことだ。文字は遠い昔からあったのに歴史書は残っていない。そのことについても著者は考察している。

 本書の終章では、古代オリエント史終焉から現代にいたるまでのこの地域の歴史を駆け足で概説している。文明・文化の創出と伝播の変遷が概観でき、現代と古代オリエントのつながりが浮かびあがってくる。

 本書のあとがきで著者が三笠宮崇仁に触れているのを読み、8年前に『ここに歴史はじまる』(三笠宮崇仁)を読んだのを思い出した。その本を引っ張り出して確認すると、本書と重なる歴史概説である。8年前に読んだ内容の大半が頭から蒸発していたのが悲しい。

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