天才小学4年生のおかげで昔のSFを読了2023年04月14日

『アド・バード』(椎名誠/集英社文庫)、藤井聡太小学4年の自己紹介カード
 33年前(1990年)のSF大賞受賞作を読んだ。

 『アド・バード』(椎名誠/集英社文庫)

 椎名誠氏のエッセイや自伝的長編は何冊も面白く読んできた。このSF小説も気がかりだったが、つい読みそびれていた。そんな昔の作品を読んだのは、新聞で天才棋士・藤井聡太の少年時代に関する記事を読んだからである。

 その記事には、藤井聡太が小学4年のときに「名人をこす」と書いた自己紹介カードの写真が載っていた。そこには「最近読んで面白かった本」として「1.海賊と呼ばれた男(百田尚樹)」「2.深夜特急(沢木耕太郎)」「3.アド・バード(椎名誠)」をあげていた。すべて大人の本だ。その早熟に驚いた。私が小学4年の頃に読んでいたのは、せいぜい『少年少女世界文学全集』だった。

 藤井少年があげた1位と2位は私も読んでいるが、3位の『アド・バード』は気がかりな未読本だ。癪に障る。74歳の凡人ジイサンが天才小学4年生と張り合ってどうするとも思うが、あたふたとネット古書店で『アド・バード』を入手し、読了した。

 文庫本で560頁強の長編SFである。若い兄弟が父の消息を求めて異形の未来世界を旅する冒険譚――と言えばオーソドックスな物語の構図だが、ディティールの濃密な描写に驚いた。広告デストピアのオモロSFを想定していたが、私の予断をはるかに超えたディープな世界の話だ。壊れた未来世界を見事に描いている。

 世界を牛耳る二大勢力の熾烈な広告合戦の果てに廃墟となった世界に、次からつぎへと奇怪な動植物や機械が登場してくる。生物(?)の多くは生物と機械を化合したバイオ化合物なのである。その名前をいくつか列挙してみる。

 ヒゾムシ、ハリフクミ、赤舌、カニクイドリ、ワナナキ、地ばしり、シダレカズラ、セイヨウシナノキ、ハキリトビアリ、インドカネタタキ、アワフキフクロガエル、ヒコネズミ、ツノダシ、ヒトスジスミレイカ、アカグチ・・・・・

 これら異形の「生物」たちの姿形を具体的に想像しながら読み進めるのは、脳味噌が干からびかけている老人にはかなりの負担である。図鑑を貼付してほしいと思った。小学4年のみずみずしい頭なら、心ときめかせて柔軟な空想力で未知の生物の姿形を奔放に紡ぎ出せるかもしれない。本書を小学4年で読んだ藤井少年がうらやましくなった。