道化師の人生に20世紀の100年を重ねた加藤健一の一人芝居2022年08月25日

 本多劇場で加藤健一の一人芝居『スカラムーシュ・ジョーンズあるいは七つの白い仮面』(作:ジャスティン・ブッチャー、演出:鵜山仁)を観た。

 加藤健一事務所は1980年に一人芝居『審判』を上演するために立ち上げたそうだ(私は彼の倅による『審判』を2カ月前に観た)。一人芝居は得意なのかとも思うが、パンフレットでは「演者には、足がすくむほどの重圧がのしかかってきます」とある。

 1999年12月31日の夜、道化師スカラムーシュが人生を振り返る独白劇である。この道化師の誕生日は1899年12月31日、百歳を迎えて己の人生に反映された20世紀を物語る仕掛けになっている。上演時間は1時間40分、舞台上には小道具・大道具が賑やかに配置され、スクリーン投影も活用して時代の変遷や空間の移動を表現している。

 スカラムーシュはトリニダード・トバゴで褐色の肌のジプシー娼婦から生まれるが、その肌は抜けるように白い。その後、孤児となり奴隷となり、西アフリカのセネガルに渡り、エチオピアやエジプトを経て、ムソリーニ政権下のヴェニスに至る。そして、ミラノを経てクラクフ(ポーランド)へ行き、ついには強制収容所に入れられる。

 この強制収容所のシーンが印象深い。収容所に入れられたものの、その身分は保留となり、犠牲者たちを埋める墓掘りの仕事に従事する。そこで、殺されていく子供たちのために道化師としてパントマイムを披露する。銃殺された犠牲者が天使になって昇天するパントマイムである。

 戦争が終わり捕らえられたスカラムーシュは戦争裁判にかけられるも釈放され、ロンドンにたどり着く。時は1951年、つまりスカラーシュは51歳である。人生を振りかえる道化師の1999年大晦日の独白はここで終わり、道化師として過ごしたその後の50年は語られない。語られない50年が余韻として響く芝居である。

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