俵万智さんの19年前の小説を読んで「勁さ」を感じた2022年08月15日

『トリアングル』(俵万智/中公文庫/2006年9月)
 俵万智さんの初期の歌集やエッセイは何冊か読んだが、その後は、沖縄への関心から数年前に『旅の人、島の人』を読んだぐらいだ。これは石垣島での子育て生活を中心に綴ったエッセイ集だった。

 この夏、新聞で俵万智さんの名を目にすることが多い気がする。7月6日には、「本日はサラダ記念日」という記事がいくつか見かけ、書架の『サラダ記念日』を引っ張り出して読み返したりもした。で、ネット検索をしていて、彼女が小説を1編だけ書いていたと知り、古書で入手して読んだ。

 『トリアングル』(俵万智/中公文庫/2006年9月)

 2003年に新聞連載し、2004年に単行本になった小説の文庫版である。主人公は33歳の女性フリーライター。妻子ある12歳年上のカメラマンと恋人関係にあり、七つ年下のフリーター(ミュージシャン志望)とも付き合い始める――そんな人間模様を主人公の一人称で綴った小説で、随所に主人公の折々の心情を表す短歌が挿入されている。

 この小説を読んで、少し驚いた。フィクションではあろうが主人公に作者が色濃く反映されていると感じざるを得ないのだ。憶測を呼びそうな内容を赤裸々に描いている。赤裸々と言っても全然ドロドロしていなくて、メルヘンのような印象を受けるのが不思議である。

 この小説を新聞連載した2003年、俵万智さんは男児を出産しシングルマザーになっている。当時、その件がどのように報じられたか、私にはほとんど記憶がない。この小説のことも知らなかった。2006年には『TANNKA 短歌』というタイトルで映画化もされたそうだが、それも知らなかった。

 19年前の小説を読んで、俵万智さんが男児出産に際して堂々と率直に小説の形で「シングルマザー決意表明」をしていたと知った。あらためて「天然系のしなやかさ」「自然体の勁さ」のようなものを感じた。

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