人物像のゆらぎが面白いスエトニウスの『ローマ皇帝伝(下)』2022年01月21日

『ローマ皇帝伝(下)』(スエトニウス/国原吉之助訳/岩波文庫)
 スエトニウスの『ローマ皇帝伝(上)』に続いて下巻を読んだ。

 『ローマ皇帝伝(下)』(スエトニウス/国原吉之助訳/岩波文庫)

 下巻はカリグラ、クラウディウス、ネロ、ガルバ、オト、ウィステリウス、ウェスパシアニス、ティトゥス、ドミティアヌスの9人の皇帝伝で、次第にスエトニウスが生きた時代に近づいてくる。

 最後のドミティアヌスが亡くなったとき、スエトニウスは20代半ばだから同時代人とも言える。しかし、時代が下るに従って記述は簡略になる。ネロまでの3人は一人で1巻だが、後の6人は3人ずつで1巻という扱いになっている。評価が定まった昔の人物は書きやすいが、直近の人物には書きにくい事情があるのかと勘繰りたくなる。

 上巻の3人(カエサル、アウグストゥス、ティベリウス)に比べれば下巻の皇帝たちは軽量級で悪帝と言われる皇帝が何人もいる。スエトニウスは歴史ではなく人物を描いている。読者が大筋の歴史を知っているのが前提の書き方である。だから、事前に別の資料で各皇帝の略歴を確認したうえで本書を読んだ。

 この皇帝ゴシップ集は皇帝たちの風貌描写がかなり露骨で、誰もが強欲・残酷・色情狂・放埓な人物に見えてくる。善行や業績も紹介しているので人物像が混乱する。そこが面白いとも言える。

 ネロの評価もよくわからない。悪帝として描き、その死を知った世間の人が喜んではしゃいだと書く一方で、彼の墓に花を飾る人が後を絶たなかったとも述べている。後の皇帝(オトなど)によるネロ評価の事業も紹介している。時代の雰囲気がよくわからないが、現実とはチグハグなものだろうと思う。

 この皇帝伝には、予知夢・予兆・予言・超常現象などが頻出する。噂ばなしを集めればこうなるのだろう。現代でも占いは廃れていないので、スエトニウスを荒唐無稽と見下すことはできない。

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