冷戦時代を反映した芝居『物理学者たち』は狂人の入れ子細工2021年09月27日

 本多劇場でワタナベエンターテインメント Diverse Theater 『物理学者たち』(作・フリードリッヒ・デユレマット/上演台本・演出:ノゾエ征爾/出演:草刈民代、温水洋一、入江雅人、他)を観た。

 作者も演出家も未知の人だが、チラシを見て興味がわき、チケットを購入した。精神病棟に入所している3人の物理学者をめぐる話で、彼らは「自分はアインシュタインだ」「自分はニュートンだ」「ソロモン王が自分のところに現れる」と語っている。その病棟でアインシュタインを名乗る患者が看護婦を絞殺する事件が発生する、という場面から芝居が始まる。

 マッドサイエンティストたちのコメディ風の芝居かなと思って劇場に足を運んだが、予測したほどにはコメディ調でなく、シリアスでもあるヘンテコな世界の話だった。ドンデン返しのくり返しで面白いのだが、ややモノ足りなかった。

 この芝居は1961年に書かれたそうだ。私が中学1年生の頃の東西冷戦時代である。基本的に平和な時代だったが、偶発核戦争→第三次世界大戦→人類滅亡という危機イメージが強い時代でもあった。そんな状況を描いた小説や映画も多かったように思う。この芝居は、あの頃の雰囲気を強く反映している。当時の危機が解消したとは言えないものの、やや古典的な危機意識がモノ足りなさの要因の一つである。

 精神病棟の患者が本当に狂人なのか、狂人を装っている正常人なのか、はたまた、狂人を装う正常人のふりをした真の狂人なのか、という謎解きは面白い。狂人と正常人の関係が逆転するという展開も興味深い。この芝居にはそんな面白さがあるが、そのハチャメチャをもっと徹底すればもっとすごくなるのに、とも感じた。

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