定価にビックリの『ソグド商人の歴史』をリングサイド読書 ― 2019年06月19日
◎今年の2月刊行の翻訳書
ソグド商人に関する次の翻訳書を読んだ。一般向け概説書ではなく研究者が研究成果を著した本である。
『ソグド商人の歴史』(E・ドゥ・ラ・ヴェシエール/影山悦子訳/岩波書店)
原著は2004年にフランスで出版され、今年の2月に訳書が出た。本書を読もうと思ったのは『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫/講談社学術文庫)を読んでソグド商人に関心を抱いたからである。以下に紹介する同書の記述も本書を読む大きなきっかけになった。
◎日本人研究者が先を越された研究書
『シルクロードと唐帝国』はソグド人の歴史を正面から取り上げた書だった。著者・森安孝夫氏はソグド史研究における日本人研究者の大きな業績を紹介し、最近の中国におけるソグド学の隆盛に言及した上で、次のように述べている。
「さらにショッキングな出来事は、2002年に『ソグド商人の歴史』と題するフランス語の書物がパリで出版され、しかもその執筆者がE=ドラヴェスィエールというフランスの若手研究者だったことである。本来なら、このような単行本はまず日本で出版されてしかるべきであるのに、完全に先を越されてしまった。その書物には我々に未知の情報も数多く含まれている。しかしながら、相当部分はすでに日本の先行研究で尽くされていることをまとめた感がいなめず、しかも本人は日本語が読めないため、我が国の多くの先行研究を見落としている」
森安氏ら日本の研究者は著者と接触し、そのアドヴァイスが2004年の改訂版には、ある程度反映されているそうだ。その顛末を述べたうえで森安氏は次のように結んでいる。
「今後の欧米におけるソグド商人の研究は、日本語の幾多の業績を参照することなく、本書を中心に動いていくことであろう。残念ながら、これが日本史を除く世界の歴史学界の現実であるが、最先端の水準さえ保っていればいつか報われるであろう」
西洋中心史観の打倒を目指す森安氏のくやしさが伝わってくる。
◎エイヤッと注文した本
『ソグド商人の歴史』原著の改訂版が出たのが2004年、森安氏の『シルクロードと唐帝国』の原著が出たのが2007年、それから10年以上経ってやっと『ソグド商人の歴史』の翻訳が出たのである。
本書を購入しようとネット検索し、その定価に驚いた。「18,500円+税」である。その高額に躊躇した。定価が高いのは発行部数が少ないということであり、限られた読者しか見込めない高度な専門書に思えたのだ。店頭で手に取って検討しようとも思ったが、エイヤッとネットで注文した。
『ソグド商人の歴史』はハードカバーで約400ページ、索引・注・参考文献が約100ページだから本文は約300ページ、さほど大部な本ではない。訳文のおかげもあり、読みやすい。
私は門外漢なので本当は概説書を享受したいのに、行きがかりで本書を読むことになった。だから、研究者の研究者相手の論述を場外から覗き見する気分で本書を読んだ。
もとより論を検証する素養などないので、飛ばし読みに近い読み方で、研究者はこういう風に論証するのかと論の進め方を眺め、その結論らしき箇所だけをチェックしながら読み進めた。意外に面白かった。
◎すでに概説書を読んでいたと気づく
想定した以上に面白く本書を読了できたのは、直前に森安氏の『シルクロードと唐帝国』を読んでいたおかげである。『シルクロードと唐帝国』を読んでいるときは、やや専門的すぎて難しいと感じることも多かったが、振りかえってみれば『シルクロードと唐帝国』はソグド商人の歴史に関する概説書だったのだ。
概説書で一通りの知識を得たうえで専門書を読む、はからずもそんな王道読書であったと気づいた。
◎歴史研究者は大変だ
また、本書を読んで歴史研究とは大変な作業だとあらためて認識した。歴史研究者の前にあるのは過去の文書や碑文などの文字情報と発掘された考古学的遺物の二つである。それが少な過ぎては困るだろうが、多過ぎても大変だと思う。研究するにはソグド語、ウイグル語、漢字、ペルシア語など関連するさまざまな言語を解読できなければならない。そんな基本材料を十分にそろえたうえで推理を展開するのである。気の遠くなるような作業だ。
研究者の成果を日本語で読んで「面白い」とか「つまらない」と言っていればいい私のような一般人は気楽である。『ソグド商人の歴史』をリングサイド気分で読んで、そう感じた。
ソグド商人に関する次の翻訳書を読んだ。一般向け概説書ではなく研究者が研究成果を著した本である。
『ソグド商人の歴史』(E・ドゥ・ラ・ヴェシエール/影山悦子訳/岩波書店)
原著は2004年にフランスで出版され、今年の2月に訳書が出た。本書を読もうと思ったのは『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫/講談社学術文庫)を読んでソグド商人に関心を抱いたからである。以下に紹介する同書の記述も本書を読む大きなきっかけになった。
◎日本人研究者が先を越された研究書
『シルクロードと唐帝国』はソグド人の歴史を正面から取り上げた書だった。著者・森安孝夫氏はソグド史研究における日本人研究者の大きな業績を紹介し、最近の中国におけるソグド学の隆盛に言及した上で、次のように述べている。
「さらにショッキングな出来事は、2002年に『ソグド商人の歴史』と題するフランス語の書物がパリで出版され、しかもその執筆者がE=ドラヴェスィエールというフランスの若手研究者だったことである。本来なら、このような単行本はまず日本で出版されてしかるべきであるのに、完全に先を越されてしまった。その書物には我々に未知の情報も数多く含まれている。しかしながら、相当部分はすでに日本の先行研究で尽くされていることをまとめた感がいなめず、しかも本人は日本語が読めないため、我が国の多くの先行研究を見落としている」
森安氏ら日本の研究者は著者と接触し、そのアドヴァイスが2004年の改訂版には、ある程度反映されているそうだ。その顛末を述べたうえで森安氏は次のように結んでいる。
「今後の欧米におけるソグド商人の研究は、日本語の幾多の業績を参照することなく、本書を中心に動いていくことであろう。残念ながら、これが日本史を除く世界の歴史学界の現実であるが、最先端の水準さえ保っていればいつか報われるであろう」
西洋中心史観の打倒を目指す森安氏のくやしさが伝わってくる。
◎エイヤッと注文した本
『ソグド商人の歴史』原著の改訂版が出たのが2004年、森安氏の『シルクロードと唐帝国』の原著が出たのが2007年、それから10年以上経ってやっと『ソグド商人の歴史』の翻訳が出たのである。
本書を購入しようとネット検索し、その定価に驚いた。「18,500円+税」である。その高額に躊躇した。定価が高いのは発行部数が少ないということであり、限られた読者しか見込めない高度な専門書に思えたのだ。店頭で手に取って検討しようとも思ったが、エイヤッとネットで注文した。
『ソグド商人の歴史』はハードカバーで約400ページ、索引・注・参考文献が約100ページだから本文は約300ページ、さほど大部な本ではない。訳文のおかげもあり、読みやすい。
私は門外漢なので本当は概説書を享受したいのに、行きがかりで本書を読むことになった。だから、研究者の研究者相手の論述を場外から覗き見する気分で本書を読んだ。
もとより論を検証する素養などないので、飛ばし読みに近い読み方で、研究者はこういう風に論証するのかと論の進め方を眺め、その結論らしき箇所だけをチェックしながら読み進めた。意外に面白かった。
◎すでに概説書を読んでいたと気づく
想定した以上に面白く本書を読了できたのは、直前に森安氏の『シルクロードと唐帝国』を読んでいたおかげである。『シルクロードと唐帝国』を読んでいるときは、やや専門的すぎて難しいと感じることも多かったが、振りかえってみれば『シルクロードと唐帝国』はソグド商人の歴史に関する概説書だったのだ。
概説書で一通りの知識を得たうえで専門書を読む、はからずもそんな王道読書であったと気づいた。
◎歴史研究者は大変だ
また、本書を読んで歴史研究とは大変な作業だとあらためて認識した。歴史研究者の前にあるのは過去の文書や碑文などの文字情報と発掘された考古学的遺物の二つである。それが少な過ぎては困るだろうが、多過ぎても大変だと思う。研究するにはソグド語、ウイグル語、漢字、ペルシア語など関連するさまざまな言語を解読できなければならない。そんな基本材料を十分にそろえたうえで推理を展開するのである。気の遠くなるような作業だ。
研究者の成果を日本語で読んで「面白い」とか「つまらない」と言っていればいい私のような一般人は気楽である。『ソグド商人の歴史』をリングサイド気分で読んで、そう感じた。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2019/06/18/9089096/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。