童門冬二の『小説榎本武揚』は座談のような小説2019年01月07日

『小説榎本武揚:二君に仕えた奇跡の人材』(童門冬二/祥伝社)
 綱淵謙錠の『航』に続けて童門冬二の『小説榎本武揚』を読んだ。

 『小説榎本武揚:二君に仕えた奇跡の人材』(童門冬二/祥伝社/1997年9月)

 著者はおびただしい数の歴史書を書いている元都庁幹部の歴史作家で、私も何冊かは読んでいる。

 『小説榎本武揚』は榎本武揚の出自から北海度開拓使出仕までを描いている。だが肝心の箱館戦争のくだりはほとんど省略している。開陽丸を回航して激動の日本に帰国し、榎本武揚が勝海舟から「不在のツケを払え」と言われたと思うと、アッと言う間に榎本は辰の口の牢の住人になっていて、出牢したら小説も終盤になる。こいう取捨選択もありかと感心した。

 この小説は丁寧な伝記というより、博識な横丁のご隠居さんの榎本武揚に関する奔放な座談の趣がある。話題が時間を越えて行ったり来たり脇道に入ったりする。精粗混在、繰り返しもあるのが愛嬌で、蘊蓄座談を楽しく拝聴している気分になる。

 著者は下町の江戸っ子だそうで、榎本武揚を山の手精神のインテリ江戸っ子として描いている。勝海舟も山の手精神の江戸っ子だが榎本とは気質が違い、著者は榎本の方に好感を抱いているようだ。

 本書で面白いと感じたのは榎本の助命に尽力した福沢諭吉の描き方である。福沢は榎本に対して屈辱感のようなわだかまりがあったという見方は、後の「痩せ我慢の説」につながっているようにも思える。

 土方歳三が箱館戦争で戦死せずに榎本と一緒に入牢していたならば榎本の助命は難しかったかもしれないという指摘もあり、歴史の機微を感じた。

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