中世イスラム世界が舞台の小説『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』 ― 2024年09月09日
知人から『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』が面白いと聞き、ネット古書店で20年以上前に出た文庫本を入手した。
『千年医師物語Ⅰ ペルシアの彼方へ(上)(下)』(ノア・ゴードン/竹内さなみ訳/角川文庫)
中世の西欧と中東を舞台にしたスケールの大きい物語である。面白く読了した。大工の子としてロンドンに生まれ、孤児になった主人公が、イギリス中を放浪したあげく海を渡り、遠くイスファハーン(イラン)にまで赴き、医師修行し、妻子を連れて帰国する成長譚である。艱難辛苦・波乱万丈の物語でもある。展開の速い大河ドラマのようだ。
同じく中世イギリスを舞台にしたオモシロ長編小説『大聖堂』を連想した。『大聖堂』と大きく異なるのは、中世のキリスト教世界だけでなくイスラム世界をかなり詳しく描いている点である。著者は米国の記者出身の作家で、1921年に95歳で亡くなっている。西欧の作家によるイスラム世界を舞台にした小説は珍しいように思う。
本書はフィクションだが、イブン・シーナ(980-1037)という実在の大学者が登場する。第二のアリストテレスとも言われる百科事典的大学者で、『医学典範』などの著書もある。主人公はイブン・シーナに医学の教えを乞うために長い旅をするのである。
加藤九祚の『中央アジア歴史群像』(岩波新書)はイブン・シーナについてかなり詳しく記述している。私はこの岩波新書を数年前に読んでいるが、イブン・シーナの名は失念していた。小説を読みながら、イブン・シーナについて検索し、かつて読んだ本に載っていたことを知った。この小説のイブン・シーナは重要な登場人物で印象深い。小説のおかげで、イブン・シーナの名をやっと覚えたような気がする。時間が経てば、また失念するかもしれないが…。
小説が扱う11世紀は「12世紀のルネサンス」以前であり、学術や文化の先進地域はイスラムだった。西欧は後進地域である。そのことを明快に描いているのも、この小説のユニークな点だと思う。
小説にはペストも出てくる。中世の医師たちは過去の文献を頼りにさまざまな対策を講じながらペストに挑む。そのなかで、壁を石灰で白く塗るという対策が出てきた。先日、南イタリア旅行でアルベルベッロを訪れ、白壁にとんがり屋根の中世の村を見た。ガイドは壁はペスト対策のため石灰で白く塗ったと説明していた。小説を読みながら、その説明とアルベルベッロの白壁を思い浮かべた。
【蛇足】
本書の邦題は『千年医師物語Ⅰ ペルシアの彼方へ』、原題は『The Physician』である。この小説は三部作で、主人公の子孫を扱った『Shaman』『Matters of Choice』と続くらしい。邦題は三部作全体を『千年医師物語』とし、ⅠⅡⅢとしたようだ。第二部は19世紀のアメリカの話で、南北戦争が絡んでいるそうだ。子孫の話だとしても、まったく別の物語に思える。私は、今のところ第二部に挑む予定はない。
『千年医師物語Ⅰ ペルシアの彼方へ(上)(下)』(ノア・ゴードン/竹内さなみ訳/角川文庫)
中世の西欧と中東を舞台にしたスケールの大きい物語である。面白く読了した。大工の子としてロンドンに生まれ、孤児になった主人公が、イギリス中を放浪したあげく海を渡り、遠くイスファハーン(イラン)にまで赴き、医師修行し、妻子を連れて帰国する成長譚である。艱難辛苦・波乱万丈の物語でもある。展開の速い大河ドラマのようだ。
同じく中世イギリスを舞台にしたオモシロ長編小説『大聖堂』を連想した。『大聖堂』と大きく異なるのは、中世のキリスト教世界だけでなくイスラム世界をかなり詳しく描いている点である。著者は米国の記者出身の作家で、1921年に95歳で亡くなっている。西欧の作家によるイスラム世界を舞台にした小説は珍しいように思う。
本書はフィクションだが、イブン・シーナ(980-1037)という実在の大学者が登場する。第二のアリストテレスとも言われる百科事典的大学者で、『医学典範』などの著書もある。主人公はイブン・シーナに医学の教えを乞うために長い旅をするのである。
加藤九祚の『中央アジア歴史群像』(岩波新書)はイブン・シーナについてかなり詳しく記述している。私はこの岩波新書を数年前に読んでいるが、イブン・シーナの名は失念していた。小説を読みながら、イブン・シーナについて検索し、かつて読んだ本に載っていたことを知った。この小説のイブン・シーナは重要な登場人物で印象深い。小説のおかげで、イブン・シーナの名をやっと覚えたような気がする。時間が経てば、また失念するかもしれないが…。
小説が扱う11世紀は「12世紀のルネサンス」以前であり、学術や文化の先進地域はイスラムだった。西欧は後進地域である。そのことを明快に描いているのも、この小説のユニークな点だと思う。
小説にはペストも出てくる。中世の医師たちは過去の文献を頼りにさまざまな対策を講じながらペストに挑む。そのなかで、壁を石灰で白く塗るという対策が出てきた。先日、南イタリア旅行でアルベルベッロを訪れ、白壁にとんがり屋根の中世の村を見た。ガイドは壁はペスト対策のため石灰で白く塗ったと説明していた。小説を読みながら、その説明とアルベルベッロの白壁を思い浮かべた。
【蛇足】
本書の邦題は『千年医師物語Ⅰ ペルシアの彼方へ』、原題は『The Physician』である。この小説は三部作で、主人公の子孫を扱った『Shaman』『Matters of Choice』と続くらしい。邦題は三部作全体を『千年医師物語』とし、ⅠⅡⅢとしたようだ。第二部は19世紀のアメリカの話で、南北戦争が絡んでいるそうだ。子孫の話だとしても、まったく別の物語に思える。私は、今のところ第二部に挑む予定はない。

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