別役実の初期戯曲を読み返し、不思議世界往還2024年05月29日

『マッチ売りの少女/象 別役実戯曲集』(別役実/三一書房/1969.7)、『不思議の国のアリス 別役実第二戯曲集』(別役実/三一書房/1970.6)
 別役実の『象』を観劇したのを機に彼の第一戯曲集と第二戯曲集を読み返した。

『マッチ売りの少女/象 別役実戯曲集』(別役実/三一書房/1969.7)
『不思議の国のアリス 別役実第二戯曲集』(別役実/三一書房/1970.6)

 この2冊の戯曲集の刊行は1969-1970年、別役実32-33歳のときだ。2冊で11編の戯曲を収録している。第一戯曲集の巻末には「それからその次へ(あとがきにかえて)」と題した16頁のやや難解なエッセーが載っている。結びは以下の通りだ。

 「状況が「戯曲」を「戯曲」として確定し、「劇作家」を「劇作家」として疑わない現在、この戯曲集を刊行するに当って私の出来る事は、これらの作品が「戯曲」であり、私が「劇作家」である事に、一定の疑念を留保することであり、今後の創作活動に於いても続けてそうすることであり、そこにこそかすかな可能性があるのだと、信ずることである。」

 こんな文章を読むと、1960年代末の空気を感じてしまう。

 第二戯曲集の「あとがき」には「この二冊に収録された11の作品が、これまでに発表された私の戯曲の全てである」としたうえで、11作品の初演記録を掲載している。作品名は以下の通りだ。

 『AとBと一人の女』(1961年作、1961年初演)
 『象』(1962年作、1962年4月初演)
 『或る別な話』(1962年作、1968年初演)
 『門』(1966年作、1966年5月初演)
 『堕天使』(1966年作、1966年9月初演)
 『マッチ売りの少女』(1966年作、1966年11月初演)
 『カンガルー』(1967年作、1967年7月初演)
 『赤い鳥の居る風景』(1967年作、1967年9月初演)
 『スパイものがたり』(1969年作、1970年4月初演)
 『不思議の国のアリス』(1970年作、1970年5月初演予定)
 『アイ・アム・アリス』(1970年作、1970年5月初演予定)

 私が古書店でこの2冊を入手したのは大学生時代の1970年頃だと思う。別役実は気がかりな劇作家だったが、当時、その舞台を観る機会はなかった。三畳1間のアパートに住んでいた役者志望の友人から、『アイ・アム・アリス』を闇録音した合唱部分を狭くて窮屈な部屋で聞かせてもらった記憶はある。それが別役実初体験だった。

 戯曲でしか別役実作品を知らなかった私がその舞台を観るようになったのは70歳を過ぎたこの数年である。この2冊の11編で舞台を観たのは先日の『象』の他には『マッチ売りの少女』『不思議の国のアリス』だけである。

 別役実の初期作品11編を読み返して、カフカやベケットがご近所に越して来たような、身近で不気味なメルヘンにも見える不思議世界を感じた。このテの不条理劇にはくり返しの体験(読むor観る)を強いる魔性がある。

 11編の中で私が面白いと思ったのは『AとBと一人の女』『堕天使』『マッチ売りの少女』『アイ・アム・アリス』である。なかでも『アイ・アム・アリス』には「嗚呼!60年代」という感慨を抱いた。

 この初期作品11編には、裸舞台に電信柱1本という「電信柱のある宇宙」はまだ登場しない(『スパイものがたり』には受話器がブラ下がった電信柱が立っているが…)。その後、別役実は百数十編の戯曲を書くことになる。

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