『神曲崩壊』がきっかけで梶山季之のルポを読んだ2023年09月29日

『ルポ戦後縦断:トップ屋は見た』(梶山季之/岩波現代文庫)
 先日読んだ山田風太郎の『神曲崩壊』で多く日本人小説家の死にざまを目撃した。「酩酊の地獄」では、飲み過ぎによる肝硬変から静脈瘤破裂で急死した梶山季之が登場する。朝からお茶代わりにビールを飲みながら50枚以上を書き、夕刻から深夜までは銀座で飲む――底なしのサーヴィス精神で編集者に好かれた流行作家だった。

 1975年に45歳で逝ったこの作家の名に遭遇し、読みかけで放置していた次の本を思い出した。

 『ルポ戦後縦断:トップ屋は見た』(梶山季之/岩波現代文庫)

 15篇のルポ集成である。冒頭は「皇太子妃スクープの記」、美智子上皇后が皇太子妃に決まったときの話だ。梶山季之の「美智子妃」スクープをどこかで読んで興味をもち、本書を入手した。この記事は1958年のスクープ記事そのものでなく、10年後の回顧記事(『文藝春秋1968/6』)だった。

 冒頭の1篇だけを読んでいた本書を引っ張り出し、全篇を読んだ。

 本書収録のルポは1958年から1967年までの雑誌(『文藝春秋』『週刊読売』『中央公論』『週刊文春』『文芸朝日』)に発表したものだ。私が小学高学年から高校の頃までの出来事を扱っている。「トップ屋は見た」というサブタイトルから週刊誌的な風俗レポートを想定したが、存外、硬派の記事が多い。

 「白い共産村」と呼ばれる「心境村」のことは本書で初めて知った。現在はどうなっているのだろうかと思い、ネット検索したが、よくわからない。事業会社は存続しているようだ。

 ブラジルの「勝ち組」「負け組」の話も面白い。戦後混乱期のブラジル移民の間での「日本が勝った」「日本が負けた」の争いだと思っていたが、そう単純な話ではなく、日本の軍票・紙幣にからんだ金儲け詐欺「事件」だったそうだ。

 「ヒロシマの五つ顔」は被爆者5人に関するレポートである。シリアスな記事だ。梶山季之という流行作家の意外な側面を知った。

 梶山季之は「母のハワイでの移民体験」「自分が生まれた植民地朝鮮」「引き揚げ後に暮らした被爆直後の広島」の三つを舞台にしたライフワークを構想していた。『積乱雲』と題したのその大河小説に取り掛った時点で帰らぬ人になった。

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