『文明の道④』は円城都市とフリードリッヒ2世が焦点2023年05月13日

『文明の道④ イスラムと十字軍』(清水和裕・高山博・他/NHK出版/2004.1),「第6集 バグダッド 大いなる知恵の都」「第7集 エルサレム 和平・若き皇帝の決断」
 20年前のテレビ番組「文明の道」の「第6集 バグダッド 大いなる知恵の都」 「第7集 エルサレム 和平・若き皇帝の決断」をオンデマンドで観て、この番組の書籍版を読んだ。

 『文明の道④ イスラムと十字軍』(清水和裕・高山博・他/NHK出版/2004.1)

 本のタイトルは「イスラムと十字軍」だ。しかし、イスラムや十字軍の全体像の概説ではなく、テーマを絞っている。前半(番組の第6集に対応)はアッバース朝の首都バグダッドに存在した「円城都市」復元がメイン、後半(番組の第7集に対応)は神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世が主役である。どちらもユニークな視点だ。

 アッバース朝第2代カリフのマンスールがイラク平原に建設した新都市バグダッドは「平安の都」と言われた。それは直径2.5キロメートル余の真円の円城都市だった。イスラム史のいくつかの概説書に円城都市のことは出てくるので、バグダッドにその遺跡か痕跡はあるのだろうと思っていた。

 この番組を観て、8世紀半ばに日乾煉瓦で構築した円城都市は完全に消失し、その正確な位置も特定されていないと知った。番組では、学者たちが衛星写真などを使って場所を特定し、CGで巨大な円城都市を復元する。見応えのある映像である。

 この円城都市がなぜ見捨てられたのか、その理由がいまひとつわからない。

 イスラムにおけるギリシア古典の翻訳運動も取り上げているが、やや中途半端に感じた。ルネサンスにつながる重要な活動だと思うので、もっと掘り下げてほしかった。

 後半のフリードリッヒ2世の話は感動モノである。私は、5年前に塩野七生の『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』で初めてこの人物を知り、ファンになった。

 アラビア語やギリシア語など7カ国語をあやつる近代的精神の神聖ローマ帝国皇帝で、教皇とことごとく対立する。十字軍としてエルサレム奪還に出陣し、戦火を交えることなくスルタンとの交渉でエルサレムを取り戻し、そこを平和共存の地とする。教皇は怒り、フリードリッヒ2世に対する十字軍を組織する……いやはや、という話である。

 フリードリッヒ2世は高校の世界史には登場しない。一般的な歴史概説書に取り上げられることもあまりないと思う。20年前にこんな番組があったとは知らなかった。

 本書収録の「フリードリッヒ2世と十字軍」(高山博)という記事が面白い。このなかで高山氏(『中世シチリア王国』の著者)は次のように述懐している。

 「中世ヨーロッパに生きた人間の中で私が最も興味をひかれ、いつの日かその伝記を書いてみたいと密かに熱望している人物の1人が、このフリードリッヒ(フェデリーコ)2世である。」

 その熱望は20年後の現在、まだ実現していないようだ。10年前の塩野氏の伝記小説が影響しているのだろうか。

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