小説と歴史概説書で天平のイメージを少しつかめた2019年07月06日

『緋の天空』(葉室麟/集英社文庫)、『天平の時代』 (栄原永遠男/集英社版日本の歴史4)
 光明皇后を主人公にした次の小説を面白く読んだ。

 『緋の天空』(葉室麟/集英社文庫)

 この小説を読み終えて、その時代背景を確認しようと次の歴史概説書を読んだ。

 『天平の時代』 (栄原永遠男/集英社版日本の歴史4)

 これは1991年刊行の日本史叢書の1冊で、ほとんど全てのページに多彩なカラー図版があり、文章も読みやすい。

 『緋の天空』は藤原不比等の娘として生まれた安宿媛(あすかべひめ・後の光明皇后)の少女時代から没するまでを点描した小説である。主な登場人物は首皇子(おびとのみこ・後の聖武天皇)、膳夫(かしわで・長屋王の息子)、清人(きよと・後の道鏡)などで、彼らの成長していく様を皇位継承の経緯とからめて描いている。

 この小説の主な事件は「長屋王の変」や「大仏開眼」だが、印象に残るのは持統・元明・元正・孝謙など女性天皇の姿であり、頼りない聖武天皇をリードする光明皇后の姿である。タイトルの「緋の天空」は「女帝が治める世を蓋う天空の色」を表している。

 あらためて、奈良時代とは女帝の時代だと認識した。女帝即位にはそれぞれ事情があったが、女帝たちは傀儡だったわけではなく、主体的に動いているように見える。

 小説がどこまで史実を反映しているか私にはわからない。基本的なことは知っておこうと、歴史学者の書いた『天平の時代』を読んだ。この概説書は、貴族や天皇の政争から経済や社会の様子、国際情勢までをバランスよく描いている。近年になって大量に発掘された木簡の話など研究現場の話題紹介も多い。

 『天平の時代』は長屋王邸を図解や写真を交えて詳しく解説している。この屋敷は小説の主要な舞台の一つなのでイメージがふくらんだ。小説にはほとんど登場しない下級の人々の様子も活写されている。写経所で写経という仕事に従事している経師たちの生活は近代の安サラリーマンそのもので、遠い古代社会が身近に感じられた。

 私は日本古代史に関しておぼろな知識しかないが、この2冊によって光明皇后や聖武天皇のイメージが具体的になり、長屋王の変の様相も把め、平城京の空気を多少は感じることができた。