『安部公房展』は盛況だった2024年11月05日

 県立神奈川近代文学館で開催中の『安部公房展:21世紀文学の基軸』に行った。会場での記念対談『安部公房と戦後の政治・芸術運動 苅部直(政治学者)鳥羽耕史(文学研究者)』も聴講した。

 安部公房展は11年前に世田谷文学館でも開催された。私はそれも観ている。前回は没後10年記念、今回は生誕100年記念である。11年前の安部公房展の記憶はかなり薄れているが、今回の方が盛況のような気がした。安部公房が忘れられた作家になる心配なさそうだ。新しい世代の読者が広がっているのだと思う。

 今回は成城高校在学中の数学のノートまで展示していた。微分や積分の端正なノートを見て、安部公房は真面目にきちんと数学の勉強もしていたのだと、少し感動した。

 「夜の会」「世紀の会」「下丸子文化集団」など、若い頃の芸術運動や政治活動に関する歴史的な資料の展示も興味深い。

 会場では、安部公房スタジオの最後の公演『仔象は死んだ』のビデオを小さなデイスプレイで流していた。私はこの公演を観ていないが、ビデオを観て、この公演への辛口批評が納得できる気がした。映像パフォーマンスとしては面白いかもしれないが、役者の魅力は殺がれているように感じられた。

 苅部直氏と鳥羽耕史氏の対談も面白かった。両氏とも1960年代生まれの研究者だから、安部公房より40歳ぐらい若い。対談を聞きながら、私のような団塊世代には同時代作家に感じられる安部公房が、すでに歴史上の人物になったと思えた。

 苅部氏が『S・カルマ氏の犯罪』のパロディが筒井康隆の『脱走と追跡のサンバ』だと指摘したのには驚いた。『脱走と追跡のサンバ』を読んだ直後に『S・カルマ氏の犯罪』を読んだので、『S・カルマ氏の犯罪』を面白いと思えなかったそうだ。

 私は半世紀以上昔に『S・カルマ氏の犯罪』を角川文庫の古本(桂川寛のオリジナル挿絵が入った珍品)で読み、その後に『脱走と追跡のサンバ』をリアルタイムで読んだ。あのとき、パロディとは気づかなかった。いずれ、読み返して確認してみたい。

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