『安部公房の都市』は政治学者による本格的な安部公房論 ― 2024年10月30日
今年は安部公房生誕100年なので関連本が目につく。『安部公房:消しゴムで書く』(鳥羽耕史)は格別に面白かった。で、本棚に眠っている安部公房関連本が気になり、10年以上前に購入した次の本を読んだ。
『安部公房の都市』(苅部直/講談社/2012.2)
著者は日本政治史が専門の政治学者である。何故、政治学者が、と思いつつ購入し、パラパラとめくった。戦後日本の都市化現象に安部公房作品を絡めて論じているのだろうと推測し、いずれ読もうと思いつつ10年以上の時間が経過してしまった。
読み始めるとひきこまれ、一気に読了した。安部公房の全体像に迫る本格的な安部公房論である。
著者は冒頭で、ハイデガーを援用して掌編「笑う月」を材料に都市の時代の不安感覚を論じている。興味をかりたてる導入だ。
本書は多くの安部公房作品に言及してる。主に論じているのは、登場順に『燃えつきた地図』『榎本武揚』『第四間氷期』『けものたちは故郷をめざす』『終わりし道の標に』『砂の女』『箱男』である。この並びは刊行順ではない。著者の論述展開に沿った作品順である。論述のキーワードは、都市、歴史、過去・現在・未来、荒野、国家、デモクラシーなどである。
著者は「あとがき」で、安部公房の作品群を「戦後の高度経済成長の到来による社会の変化に、作家の想像力が敏感に応答していった軌跡としても興味ぶかい。」と述べている。本書はその「軌跡」をあざやかな手際で探究している。
私には『榎本武揚』と『第四間氷期』の分析が面白かった。
『榎本武揚』については、かつての吉本隆明・花田清輝論争に関連して、著者は次のように述べている。
「論争の流れのなかに強引に位置づけるなら、小説『榎本武揚』は、花田のための数年遅れでの援護射撃と読むこともできるのではないか。」
そんな読み方ができるとは、まったく気付かなかった。
『第四間氷期』は半世紀以上昔の高校時代に読んだきり、読み返していないと思う。本書を読みながら、物語の記憶がまだらによみがえってきた。いまは否定されているルイセンコ学説の影響がこの小説に見てとれる、との指摘に驚いた。考えれば、そうかもしれない。コンピュータの黎明期に、コンピュータの知識がまったくなかった高校生の私が読んだ「電子計算機」小説、いずれ再読したいと思った。
『安部公房の都市』(苅部直/講談社/2012.2)
著者は日本政治史が専門の政治学者である。何故、政治学者が、と思いつつ購入し、パラパラとめくった。戦後日本の都市化現象に安部公房作品を絡めて論じているのだろうと推測し、いずれ読もうと思いつつ10年以上の時間が経過してしまった。
読み始めるとひきこまれ、一気に読了した。安部公房の全体像に迫る本格的な安部公房論である。
著者は冒頭で、ハイデガーを援用して掌編「笑う月」を材料に都市の時代の不安感覚を論じている。興味をかりたてる導入だ。
本書は多くの安部公房作品に言及してる。主に論じているのは、登場順に『燃えつきた地図』『榎本武揚』『第四間氷期』『けものたちは故郷をめざす』『終わりし道の標に』『砂の女』『箱男』である。この並びは刊行順ではない。著者の論述展開に沿った作品順である。論述のキーワードは、都市、歴史、過去・現在・未来、荒野、国家、デモクラシーなどである。
著者は「あとがき」で、安部公房の作品群を「戦後の高度経済成長の到来による社会の変化に、作家の想像力が敏感に応答していった軌跡としても興味ぶかい。」と述べている。本書はその「軌跡」をあざやかな手際で探究している。
私には『榎本武揚』と『第四間氷期』の分析が面白かった。
『榎本武揚』については、かつての吉本隆明・花田清輝論争に関連して、著者は次のように述べている。
「論争の流れのなかに強引に位置づけるなら、小説『榎本武揚』は、花田のための数年遅れでの援護射撃と読むこともできるのではないか。」
そんな読み方ができるとは、まったく気付かなかった。
『第四間氷期』は半世紀以上昔の高校時代に読んだきり、読み返していないと思う。本書を読みながら、物語の記憶がまだらによみがえってきた。いまは否定されているルイセンコ学説の影響がこの小説に見てとれる、との指摘に驚いた。考えれば、そうかもしれない。コンピュータの黎明期に、コンピュータの知識がまったくなかった高校生の私が読んだ「電子計算機」小説、いずれ再読したいと思った。
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