林芙美子の戦中・戦後を描いた『太鼓たたいて笛ふいて』2024年11月03日

 紀伊国屋サザンシアターでこまつ座公演『太鼓たたいて笛ふいて』(作:井上ひさし、演出:栗山民也、出演:大竹しのぶ、高田聖子、福井晶一、天野はな、近藤公園、土屋佑壱)を観た。

 林芙美子の半生を描いた音楽劇である。林芙美子が『放浪記』で売れっ子作家になったのは1930年、27歳のときだった。戦時中は多くの作家と同じように軍の要請で戦地に赴いて現地報告などを発表する。戦後も精力的に作品を発表するが、1951年、心臓麻痺で急逝した。

 1935年から1951年までの林芙美子邸がメイン舞台である。満州事変が日中戦争に拡大していく時代から、敗戦後6年の林芙美子急逝までを描いている。登場人物は6人、その6人による合唱で幕が上がる。登場人物の紹介のような合唱に、「ドン」「ピッ」という間の手のような掛け声が入る。芝居がかなり進行してから、あの「ドン」「ピッ」は太鼓の音と笛の音だったのだと気づいた。

 この芝居は10年ぶりの5度目の上演で、初回(2002年)から大竹しのぶが主演だそうだ。私は初見である。戯曲も読んでいない。

 カンパのために芙美子邸を訪れた女性が島崎藤村の姪・島崎こま子なのには驚いた。やがて、芙美子邸に同居する。観劇後、どこまでが史実に基づいているのか気になり、少し調べた。多少の接点はあったようだがフィクションだと思う。こんな設定を考え出した井上ひさしの作劇の才に感服した。

 観劇前に林芙美子について検索した際、急逝のときのエピソードを知った。売れっ子作家の原稿を取りにきた編集者は、締め切り逃れの嘘だと思って「死んだふりはやめてください」と遺体の面布を剥がしたそうだ。このエピソードは芝居の取り入れられているだろうと推測したが、ハズレた。ラストはコメディではなくシリアスだった。

 この芝居は、従軍作家として戦争宣伝の文章を発表していた林芙美子が、戦地を巡るなかで戦争の実情を知り、太鼓をたたいて笛をふくことをやめる決断に至る話である。音楽劇にこめられたメッセージはシリアスだ。

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