清水邦夫の古い戯曲集を読んだ ― 2026年05月22日

映画チラシ、『あらかじめ失われた恋人たちよ 劇篇』(清水邦夫/講談社/1981.10)
 来週、清水邦夫(1936-2021)作の『あの、愛の一群たち』という芝居を観る予定だ。できれば事前に戯曲を読めないかとネット検索し、この戯曲が収録されている古い戯曲集をネット古書店で入手した。

 『あらかじめ失われた恋人たちよ 劇篇』(清水邦夫/講談社/1981.10)

 本書は次の三つの戯曲を収録している。巻末に上演記録もある。

 「あの、愛の一群たち」(1980年7月、木冬社公演)
 「一九八一・嫉妬」(1981年5月、文学座アトリエ公演)
 「あらかじめ失われた恋人たちよ―劇篇―」(1981年10月、木冬社公演)
 
 書名になった戯曲は、1971年公開のATG映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』(監督:田原総一朗、清水邦夫、出演:石橋蓮司、桃井かおり、加納典明、他)の「劇篇」である。私が大学生時代に公開されたこの映画、タイトルは記憶に残っている。当時、ATG映画は何本か観ているが、この映画は観ていない。

 「劇篇」を読む前に映画を観ておく方がよかろうと思って調べると、プライム・ビデオで視聴可能(400円)だ。まず、55年前のこの映画を観た。

 映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』は、1970年頃の空気を濃厚に映したATGらしいモノクロ映画で、石橋蓮司も桃井かおりも若い。フーテンの若者(石橋蓮司)が日本海沿岸をさすらい、唖のカップル(加納典明と桃井かおり)に出会い、共にさまよう話である。言葉を失った加納典明と桃井かおりに台詞はなく、石橋蓮司がしゃべり続ける。

 オンデマンドで映画を観た後、「劇篇」を読んだ。芝居の冒頭、主人公の「男」が次のように語る。

 「十年前、リルケの詩から題名をとった映画がつくられました、<あらかじめ失われた恋人たちよ>……噂によれば、封切当時アートシアター・ギルド作品としてはビリから二番目に当らなかった映画だそうです。そんなわけでごらんになっていない方も多いと思いますが、とりたてて筋を説明してもはじまらない映画で、ま、いってみれば、このぼくを十年若くしたような青年が日本海沿岸をうろつく……そういった話です。」

 映画の主人公の10年後を描いた芝居だろうと思って読み進めたが、映画とは別世界の芝居だった。幻の蝶が生息するという森の中で展開する話で、映画との接点はほとんどない。主人公の「男」は蝶の収集家である。三人の女性(女性歯科医、その妹、死んだ弟の妻である歯科医)の人間像が印象深い不思議な戯曲だった。

 目当ての「あの、愛の一群たち」は狂気が生み出す幻の人物と現実の人物の相克と溶融を描いている。郷土資料館という奇妙な場所を舞台にした戯曲で、一読では把握しにくい。舞台を観るのが楽しみだ。

 「一九八一・嫉妬」も狂気と正常の狭間に展開する奇妙な家庭劇である。安部公房を彷彿させる部分もあり、清水邦夫がデビュー時に安部公房から高く評価されたことを想起した。その後の清水邦夫作品を安部公房がどう評価していたかは知らないが…。

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