『小説ヒトラー』第Ⅱ巻にはヒトラーユーゲントの少年登場 ― 2026年10月17日

『小説ヒトラー 第Ⅱ巻 戦前篇』(佐藤賢一/集英社)
 佐藤賢一の『小説ヒトラー』、第Ⅰ巻に続いて第Ⅱ巻を読んだ。

 『小説ヒトラー 第Ⅱ巻 戦前篇』(佐藤賢一/集英社)

 ヒトラーが首相に就任した1933年1月30日からポーランド侵攻(第二次大戦開戦)の1939年9月1日までの7年間を描いている。この7年は、ヒトラーの伝記では最も面白い怒涛の興隆期であり、近代史としても興味深い時代だ。ヒトラーという異能の人物を中心にして歴史が動いた時代とも言える。

 第Ⅰ巻は、ヒトラー視点の他にゲッベルス視点、ヒムラー視点の描写で展開したので、その調子が続くかと思っていた。だが、第Ⅱ巻では描出する世界の拡がりに対応して視点も多様になる。ゲッベルスもヒムラーも相対化される。

 架空の人物と思われるザール地方の少年ハンスも登場する。独仏の国境地帯のザール地方は国際連盟の管理下にあったが、1935年1月、住民投票によってドイツに復帰する。このとき15歳だった金髪碧眼長身のハンスはヒトラーに魅せられてヒトラーユーゲントに入る。後に親衛隊員となりゲシュタポの下っ端として働き、能力が評価されて親衛隊士官学校に入学、第Ⅱ巻末で20歳になる。ハンス視点の成長譚と目撃談に小説的な面白さがある。

 第Ⅰ巻も『ヒトラー全記録』(阿部良男/柏書房)を座右に詳細年表を参照しながら小説を読み進めた。

 1933年1月30日、ヒトラーが首相に就任したとき、ナチ党(本書ではエン・エスと表記)は第1党とは言え過半数に満たず、入閣したのはゲーリングとフリックのみの連立政権だった。だが、2カ月後の3月24日には全権委任法可決でヒトラーに権力が集中し、6月末までにエン・エス以外の政党が解散、7月14日には政党新設禁止法が成立し、独裁体制が確立する。手品のような半年だ。

 小説は政党を解散に追いつめていくさまを生々しく描いていて面白い。国会議事堂放火についても小説ならではの推測による陰謀劇に仕立てている。

 第Ⅱ巻が描く主な出来事は以下の通りだ。

 1934年6月 レーム粛清(長いナイフの夜)
 1936年3月 ラインラント進駐
 1936年8月 ベルリンでオリンピック大会
 1938年3月 オーストリア併合
 1938年9月 ミュンヘン協定でズデーテンラントを併合
 1939年3月 チェコを併合、スロヴァキアを保護国化
 1939年8月 独ソ不可侵条約締結
 1939年9月 ポーランド侵攻

 歴史事象の展開を小説として描くと、省略の多い駆け足気味になる。登場人物も振り付け通りに演じる木偶人形になりやすい。そんな中で、レームの姿が印象に残った。役者である。

 ミュンヘン協定に至る緊迫した内幕劇も面白かった。チェコを切り捨てたチェンバレンに対してヒトラーがイギリスを「怖い国だな」との感慨を抱くのが興味深い。小説でしか描けない心理である。

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