構造主義に関する36年前と56年前の新書を読んだ2024年10月21日

『はじめての構造主義』(橋爪大三郎/講談社現代新書)、『構造主義』(北沢方邦/講談社現代新書)
 『野生の思考』(レヴィ=ストロース)に目を通し、『100分de名著』のテキストを読んでも、頭の中にはモヤがかかったままだ。多少は理解を深めたいと思い、次の新書2冊を続けて読んだ。いずれもかなり昔の講談社現代新書である。

 『はじめての構造主義』(橋爪大三郎/講談社現代新書/1988.5発行/2023.11=62刷)
 『構造主義』(北沢方邦/講談社現代新書/1968.12発行/1970.1=3刷)

 手頃な解説書をネット検索していて見つけたのが『はじめての構造主義』(以下、橋爪本)である。ネット書店で入手し、奥付を見ると発行は36年前だった。入手したのは2023年刊行の62刷。驚異のロングセラーだ。

 橋爪本を読み始めると、半世紀以上昔の大学生時代に入手した『構造主義』(以下、北沢本)を思い出した。書棚の奥から見つけ出した古い新書の発行日は56年前だった。パラパラめくると、傍線や稚拙な書き込みがある。読了しているようだが、内容はまったく憶えていない。

 北沢本はいったん脇におき、まず、橋爪本を読んだ。「はしがき」には「ちょっと進んだ高校生、かなりおませな中学生」にも読めるように書いたとある。確かにわかりやすい。ロングセラーになる所以がわかる。

 橋爪本の冒頭、著者が大学生になったばかりの頃の「構造主義ブーム」を語っている。1960年代後半の話だ。橋爪氏と同年代の私は、この件りを読んで、わが学生時代に入手した北沢本の記憶がかすかによみがえったのだ。同じ時代の空気を呼吸していたとは言え、超一流大学の知性あふれる学生・橋爪氏と凡庸な私を較べるのは僭越である。齢を重ねて進歩のない私には、同年代の橋爪氏の中高生向けの手ほどきが有難い。

 構造主義にもいろいろあるらしいが、橋爪本はレヴィ=ストロースの構造主義を解説している。「構造」とは何かは、レヴィ=ストロースを繰り返し読んでもピンとこない、と書いている。少し安心した。「構造」という抽象概念を把握するには数学を援用するのがいいとし、射影幾何学や抽象代数学を用いて「構造」を解説している。説明がやさしいので、わかった気になる。

 橋爪本を読んだ後、北沢本を読んだ。半世紀ぶりの再読のはずだが、何も憶えていないので初読と変わらない。「あとがき」によれば1968年10月からの2カ月足らずで執筆したそうだ。発行は1968年12月である。

 北沢本からは1968年の熱い息吹が伝わってくる。1968年はフランスの五月革命の年である。日本では全共闘時代、中国は文革時代、世界の至るところでスチューデント・パワーが高揚していた。当時、北沢氏は桐朋学園大学助教授として音楽社会学などの分野で活動していた。

 オビには「構造主義は日本の思想界にも爆発的な登場をした。なぜこの思想が迎えられたのか。いかなる方法によって何をめざすものなのか。単なる解説書にとどまらぬ大胆犀利な問題提起」とある。

 オビが語る通り、構造主義の解説書ではない。著者の言葉を借りれば「弁証法的構造主義の立場から「全体知」を開発するこころみ」の書である。入門書のつもりで繙くととまどってしまう。

 北沢本もレヴィ=ストロースに相当のページを割いているが、『悲しき熱帯』以外の主著はまだ翻訳されていない時代である。『野生の時代』は『パンセ・ソヴァージュ』という原題で紹介している。レヴィ=ストロースがサルトルの『弁証法的理性批判』を批判したことには触れていない。北沢氏はサルトルに共感し、救出しようとしているようにも思われる。

 北沢本には「構造としての人間」「人間の全体性」という言葉が頻出する。これらはほぼ同じ意味に思える。「構造としての人間=人間の全体性」を科学的に追究していくのが構造主義だとしているようだ。記述はかなり難解である。そのトーンは高い。アジ演説のように熱い。半世紀前に本書を読んだ私は「構造主義ってわけがわからん」と感じたのだと思う。何も覚えていないのだから…。

 さほど意味のあることではないが、20年の時間差がある橋爪本と北沢本は、両書とも著者39歳のときの著書である。

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