12世紀のビザンツ帝国を分析した『ビザンツ 幻影の世界帝国』2023年08月10日

『ビザンツ 幻影の世界帝国』(根津由喜夫/講談社選書メチエ/1999.4)
 昨年の夏から秋にかけてビザンツ帝国がマイブームになり、10冊ほどの概説書を読み、とりえあず一段落のつもりだった。だが、次の本を入手したまま読み残していたのを思い出した。読み始めると面白く、一気に読了できた。

 『ビザンツ 幻影の世界帝国』(根津由喜夫/講談社選書メチエ/1999.4)

 千年続いたビザンツ帝国の後期、コムネノス朝第三代皇帝マヌエル1世(在1143-1180)の時代を描いた歴史書である。私は、概説書10冊でビザンツ史を多少はイメージできるつもりだった。だが、マヌエル1世と言われてもピンと来ない。「西欧かぶれの皇帝」と聞いて、そう言えばそんな皇帝がいたような気がすると思った。

 12世紀にウエイトをおいたビザンツ本を読むのは初めてである。本書によって、ビザンツ史のイメージが補完され、マヌエル1世の姿が少しクリアになった。

 ビザンツ帝国は古代ローマ帝国の承継を自認している帝国である。しかし、賢帝の2世紀と十字軍の12世紀とでは時代が異なる。周辺にさまざまな勢力があり、ビザンツ帝国の領土は縮小している。といっても、コンスタンティノープルは世界の富を集めた魅惑的な国際都市として繁栄している。

 マヌエル1世は、そんな12世紀のビザンツを「世界帝国」として演出した人物であり、それは「幻影の世界帝国」「虚構の世界帝国」だった――本書はそんな視点でマヌエル1世の統治や施策を分析している。スリリングな論旨展開に魅了された。著者は次のように表現している。

 「マヌエル帝によって、細心の注意を払って構築された、ビザンツを核とするこの国際秩序は、精巧なガラス細工のような繊細さと華麗さを併せもつ、虚構の世界帝国だったのである。」

 幻影や虚構は無意味なものとは限らない。世の中を動かすのは物理的な力だけではない。幻影や虚構を作り出す力の役割も大きいと思う。

【以下、私的メモ】

 久々にビザンツ本を読み、以前に読んだ本の内容の多くを失念していると再認識した。これまでに読んだビザンツ本の一覧表を作り、いつの日かの再読の手引きとする。

『ビザンツ帝国』中谷功治
『図説ビザンツ帝国』根津由喜夫
『ビザンツとスラブ』井上浩一・栗生沢猛夫
『生き残った帝国ビザンティン』井上浩一
『ビザンツの国家と社会』根津由喜夫
『ビザンツ帝国史』ポール・ルメルル
『ビザンツと東欧世界』鳥山成人
『ビサンツ 驚くべき中世帝国』ジュディス・ヘリン
『ビザンツ皇妃列伝』井上浩一
『黄金のビザンティン帝国』ミシェル・カプラン
『コンスタンティノープル千年』渡辺金一