ゴチャゴチャした歴史概説書を読んだ ― 2022年08月31日
先月、『ビザンツ帝国』(中公新書)と『図説ビザンツ帝国』を続けて読んだので、ビザンツ帝国に関する基礎知識を定着させたく、次の概説書を読んだ。
『ビザンツとスラヴ(世界の歴史11)』(井上浩一・栗生沢猛夫/中央公論社/1998.2)
第1部「ビザンツ――千年帝国のあゆみ」を井上浩一氏が執筆、第2部「スラヴ――その多様性の源泉」を栗生沢猛夫氏が執筆している。第1部のビザンツは先月読んだ本の名残りがあって比較的スムーズに読めたが、第2部のスラヴは馴染み薄い地域のゴチャゴチャした歴史を追うのが大変で、思いのほか時間を要した。読了はしたが頭に入ったとは言えない。
第1部の書き出しは皇妃選びの美人コンテストの話である。美人であれば家柄・財産に関係なく誰でも参加できたコンテストで、著者は「ビザンツ帝国はシンデレラの帝国であった。」と述べている。何となく魅力的な帝国に見えてくる。
ビザンツは自称ではない。ビザンツ帝国の公用語は7世紀からギリシア語だが、ビザンツ人は「我々はローマ人、この国はローマ帝国」としていた。ビザンツ皇帝は初代ローマ皇帝アウグストゥスの正統な後継者という認識である。著者は「ローマ帝国という仮面」と表現している。
ビザンツ帝国は初期のユスティニアヌス帝(在527-578)の時代に領土をローマ帝国の最盛期に近い地中海全域にまで広げる。その後、支配地域は縮小していくが、ひとときとはいえローマ帝国を甦らせたことが、後世のビザンツ人の「我が国はローマ帝国」という精神的な拠り所になったそうだ。なるほどと思った。
ビザンツ帝国の歴史がわかりにくいのは、支配地域が縮小していく過程(一時的には拡大もする)において、当然ながら周辺勢力との関わりが生じ、その周辺勢力の歴史を知らないと状況を把握しにくい点にある。
周辺勢力とは、イスラームの国々、カトリック教会、フランク王国とその後継者であり、さらに遊牧民族やスラブ系民族である。特に隣接するスラヴ系民族との関わりは重要であり、それ故に本書は「ビザンツとスラヴ」を1冊にまとめているのだと思う。
第2部ではスラヴ人の登場から15世紀頃までの歴史を概説している。本書で分類・列挙しているスラヴ人は次の通りだ。
東スラブ:ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人
西スラブ:ポーランド人、チェコ人、スロヴァキア人、ソルブ人、カシューブ人
南スラブ:セルビア人、クロアチア人、スロヴェニア人、マケドニア人、モンテネグロ人、ブルガリア人
彼らの住む東欧にはスラヴ人以外の人々もいる。本書が取り上げる非スラヴ人は次の通りだ。
ハンガリー人、ルーマニア人、アルバニア人、ラトヴィア人、リトアニア人、エストニア人、ハザール人、ユダヤ人
これらの多様な〇〇人の名を眺めるだけで頭の中が混乱してくる。私は、20世紀末の冷戦終結後のユーゴスラヴィア解体過程のゴチャゴチャも頭に入っていないが、この地域の歴史の淵源の複雑さは何となくわかった。
本書はウクライナやロシアの始まりについても述べている。20年以上前の本だが、ウクライナの歴史家とロシアの歴史家の見解の違いにも言及している。ゴチャゴチャした歴史をわかりやすく解釈するのは、魅力的ではあるが危険でもある。歴史は難しい。
『ビザンツとスラヴ(世界の歴史11)』(井上浩一・栗生沢猛夫/中央公論社/1998.2)
第1部「ビザンツ――千年帝国のあゆみ」を井上浩一氏が執筆、第2部「スラヴ――その多様性の源泉」を栗生沢猛夫氏が執筆している。第1部のビザンツは先月読んだ本の名残りがあって比較的スムーズに読めたが、第2部のスラヴは馴染み薄い地域のゴチャゴチャした歴史を追うのが大変で、思いのほか時間を要した。読了はしたが頭に入ったとは言えない。
第1部の書き出しは皇妃選びの美人コンテストの話である。美人であれば家柄・財産に関係なく誰でも参加できたコンテストで、著者は「ビザンツ帝国はシンデレラの帝国であった。」と述べている。何となく魅力的な帝国に見えてくる。
ビザンツは自称ではない。ビザンツ帝国の公用語は7世紀からギリシア語だが、ビザンツ人は「我々はローマ人、この国はローマ帝国」としていた。ビザンツ皇帝は初代ローマ皇帝アウグストゥスの正統な後継者という認識である。著者は「ローマ帝国という仮面」と表現している。
ビザンツ帝国は初期のユスティニアヌス帝(在527-578)の時代に領土をローマ帝国の最盛期に近い地中海全域にまで広げる。その後、支配地域は縮小していくが、ひとときとはいえローマ帝国を甦らせたことが、後世のビザンツ人の「我が国はローマ帝国」という精神的な拠り所になったそうだ。なるほどと思った。
ビザンツ帝国の歴史がわかりにくいのは、支配地域が縮小していく過程(一時的には拡大もする)において、当然ながら周辺勢力との関わりが生じ、その周辺勢力の歴史を知らないと状況を把握しにくい点にある。
周辺勢力とは、イスラームの国々、カトリック教会、フランク王国とその後継者であり、さらに遊牧民族やスラブ系民族である。特に隣接するスラヴ系民族との関わりは重要であり、それ故に本書は「ビザンツとスラヴ」を1冊にまとめているのだと思う。
第2部ではスラヴ人の登場から15世紀頃までの歴史を概説している。本書で分類・列挙しているスラヴ人は次の通りだ。
東スラブ:ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人
西スラブ:ポーランド人、チェコ人、スロヴァキア人、ソルブ人、カシューブ人
南スラブ:セルビア人、クロアチア人、スロヴェニア人、マケドニア人、モンテネグロ人、ブルガリア人
彼らの住む東欧にはスラヴ人以外の人々もいる。本書が取り上げる非スラヴ人は次の通りだ。
ハンガリー人、ルーマニア人、アルバニア人、ラトヴィア人、リトアニア人、エストニア人、ハザール人、ユダヤ人
これらの多様な〇〇人の名を眺めるだけで頭の中が混乱してくる。私は、20世紀末の冷戦終結後のユーゴスラヴィア解体過程のゴチャゴチャも頭に入っていないが、この地域の歴史の淵源の複雑さは何となくわかった。
本書はウクライナやロシアの始まりについても述べている。20年以上前の本だが、ウクライナの歴史家とロシアの歴史家の見解の違いにも言及している。ゴチャゴチャした歴史をわかりやすく解釈するのは、魅力的ではあるが危険でもある。歴史は難しい。
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