碩学のガイドで遺跡巡りをした気分2022年07月26日

『図説ビザンツ帝国:刻印された千年の記憶』(根津由喜夫/ふくろうの本/河出書房新社)
 ビザンツ帝国に関する次の本を読んだ。

 『図説ビザンツ帝国:刻印された千年の記憶』(根津由喜夫/ふくろうの本/河出書房新社)

 各ページのほぼ半分が写真である。眺めて楽しい本だ。著者はビザンツ帝国史の研究者で、美術史家ではない。ビザンツの芸術作品や建築を技法や様式といった視点で紹介するのではなく、歴史学の視点で解説している。

 本書は全9章で、それぞれの章が特定の都市や地域の遺跡や遺物(建物や壁画など)の紹介になっている。だが、旅行ガイドではない。千年の時間を章ごとにたどる歴史概説である。第1章は「4~6世紀」で舞台はコンスタンティノープル、最終章(第9章)は「14~15世紀」で舞台はトレビゾンド――といった具合である。

 それぞれの時代解説が特定の地域の遺物紹介とうまくマッチするのだろうかと思うが、時間の流れと空間の移動がよく工夫されている。コンスタンティノープルなどは複数の章(第1章、第5章、第8章)の舞台になっている。本書が辿る場所は、コンスタンティノープル、ラヴェンナ、テサロニキ、カッパドキアからアトラス山へ、バチコヴォとフェライ、キプロス、トレビゾンドの7カ所である。

 掲載されている写真(風景、建物、壁画)の大半は著者自身が現地で撮影したものである。だから、遺跡や遺物を巡って歴史を語る口調に臨場感があり、自ずと熱を帯びてくる。碩学のガイドで、歴史概説や考察に耳を傾けながら遺跡巡りをしている気分になる。充実した旅を追体験するような本である。