花園神社の紅テントで唐十郎世界を体験2022年05月20日

 劇団唐組の『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(作:唐十郎、演出:久保井研+唐十郎)を新宿・花園神社の紅テントで観た。

 この芝居の初演は1976年10月の状況劇場だそうだが、私は観ていない。その前後の『下町ホフマン』(1976年6月)と『蛇姫様』(1977年5月)を観た記憶はある。あらためて、あの頃の唐十郎の精力的に活動に驚く。

 今回初めて観たにもかかわらず、この芝居には懐かしい既視感がある。唐十郎世界に共通する情景と情念に満ちているからである。21世紀になってもくり返し上演される唐十郎の「アングラ劇」を観るたびに感じるのは、もはや唐十郎は伝統芸能に近いということだ。

 劇団唐組の稲荷宅央や藤井由紀の好演に、往年の状況劇場の怪優たちの怪演の継承を感じる。ラストの屋台崩しとクレーンによる宙乗りにはお約束のカルシスがある。客層も私のような高齢者だけではなく若い人も多い。往年と同じ「掛け声」もあがる。伝統芸能たるゆえんである。

 今回の芝居にはハムレットの科白が多く出てくる。ハムレットが墓場の髑髏に語りかける場面である。また、ツルゲーネフの『ハムレットとドンキホーテ』の唐十郎的な展開もあって楽しめる。森進一の『冬の旅』が芝居全体のテーマソングになっている。蜷川幸雄の『近松心中物語』も森進一の歌謡を効果的に使っていた記憶がある。彼の歌謡は情念とギャグのスレスレを表現する舞台に適しているようだ。

 この芝居では『チム・チム・チェリー』も歌われる。その場面で私の長年の疑問が解けた。私が初めて唐十郎に触れたのは、紅テント初体験の半年ほど前に観た映画『新宿泥棒日記』(監督:大島渚、1969年2月公開)である。この映画の中で、ふんどし姿でギターを手にした唐十郎が怪しげに歌う「ベロベロベ、ベロベロべ、子供さん」のメロディーが『チム・チム・チェリー』に似ていると思っていた。今回の芝居で、「チムチムニ、チムチムニ…」がいつの間にか「ベロベロベ、ベロベロベ…」に転換したので、やはりパクリだったと了解した。

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