『皇帝たちの都ローマ』は秀逸な史書2021年09月23日

 先月末、岩波ジュニア新書の 『ローマ帝国』(青柳正規)を読み、続いて同じ著者の次の新書を読み始めたが、読了に思いのほかの時間を要した。

『皇帝たちの都ローマ:都市に刻まれた権力者像』(青柳正規/中公新書/1992.10)

 1993年に毎日出版文化賞を受賞したこの古い新書、昔の小さい活字で400ページ、普通の新書の2冊分ぐらいの分量である。読了に時間を要したのは分量のせいもあるが、記述がトリビアルだからである。

 本書はカエサルからコンスタンティヌスまで約400年のローマ皇帝たちの歴史を語りつつ、皇帝たちが手掛けた建築物(神殿、広場、バシリカ、宮殿、凱旋門、浴場、港湾など)を紹介している。

 建築物に関する記述を読み解くには、独特の古代建築用語を理解しなければならないし、地図(市街図)で場所や地形を確認したくなる。建築物の写真や復元図も眺めたい。本書には写真や地図がかなり載っているが、それだけでは十分でない。他の参考書やネット上の資料を参照しながら読み進めることになる。だから読了に時間を要した。私の素養が足りなかったということである。

 著者は西洋美術館館長や文化庁長官を歴任した美術史家だが、本書は建築史の本ではない。ローマ史を興味深く語る史書である。歴代皇帝の活躍を要領よく紹介したうえで、その皇帝が創建・修復した建築物を解説する記述スタイルになっていて、そこから古代都市ローマの変遷が浮かび上がってくる。

 アウグストゥスからネロに至るユリウス・クラウディウス朝5代の皇帝の物語は、いくつかの本で読んできたが、本書によって、あらためて宮廷ドラマの面白さを感じた。

 と言っても、韓流歴史ドラマ風ではない。政治的社会的背景をふまえて歴史を俯瞰的に記述している。たとえば、ローマの最盛期と言われる五賢帝時代を、著者は「繁栄から衰退への転換の時代」ととらえ、「五人の皇帝たちは、優れた政治によってその転換を遅らせることに貢献し、よりおだやかなものにしたという意味で五賢帝の名にふさわしい治世者である」と述べている。卓見である。

 五賢帝の4番目、アントニヌス・ピウスに関する次の記述も面白い。

 《都市としての都の成熟化は、新築工事よりも維持保全のための工事をより多く必要とするようになり、その意味での硬直化が確実に進行していたことをこの時代の造営建築が示している。それは、晩年、副木をあてなければ背中を伸ばすことのできなかったアントニヌス・ピウスの身体のようであった。》

 いつの日か、資料を身辺に整えてあらためて味読したい本である。

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