ナガサキ原爆の二人芝居『母と暮せば』の富田靖子が魅力的2021年07月11日

 紀伊国屋ホールでこまつ座の『母と暮せば』(原案:井上ひさし、作:畑澤聖悟、演出:栗山民也、出演:富田靖子、松下洸平)を観た。

 先々月の 『父と暮せば』と対のような作品だが、こちらは井上ひさしの戯曲ではない。作家の死後、残された原案を元に作成した畑澤聖悟の脚本である。

 『母と暮せば』は山田洋次監督の映画があり、映画台本を元にした『小説 母と暮せば』(山田洋次・井上麻矢)もある。私は映画は観ていないが、観劇に先立って『小説 母と暮せば』は読んだ。小説と舞台は展開とラストが異なっている。私には小説より舞台の方が数段よかった。『父と暮せば』と較べれば、やはり井上ひさし戯曲の『父と暮せば』の方が巧みである。

 『父と暮せば』はヒロシマ原爆を扱った父と娘の二人芝居で、父は原爆で亡くなった幽霊だった。ナガサキ原爆を扱った『母と暮せば』は母と息子の二人芝居で、原爆で亡くなった幽霊は息子の方である。

 『父と暮せば』は娘が自身の中で抑圧している深層心理を父の幽霊に投影している仕掛けになっていた。『母と暮せば』も基本的には似た構造だが、少し印象が異なる。母の願望がストレートに息子の幽霊を召喚しているように思える。

 母親役の富田靖子は茶目っ気とシリアスのバランスがよくて魅力的だった。