『コンスタンティノープルの陥落』は多角的視点の歴史小説2021年05月17日

『コンスタンティノープルの陥落』(塩野七生/新潮文庫)
  『オスマン帝国500年の平和』 (林佳世子)、 『オスマン帝国』 (小笠原弘幸)の2冊を読み、塩野七生氏の海戦三部作(『コンスタンティノープルの陥落』『ロードス島攻防記』『レパントの海戦』)を思い出した。そのうち読もうと購入したままだったが、頭がオスマン帝国モードになっているいまこそが読む時だと思った。三海戦ともオスマン帝国とキリスト教国との戦いである。

 まずは、1453年のコンスタンティノープル陥落の物語を読んだ。

 『コンスタンティノープルの陥落』(塩野七生/新潮文庫)

 読みやすい歴史小説である。陥落させる側はオスマン帝国の「若者」メフメト2世(本書ではマホメッド2世と表記)、敗れる側はビザンチン帝国(東ローマ帝国)最後の皇帝「敬愛される」コンスタンティヌス11世である。と言っても、この二人を中心にした記述にはなっていない。多角的視点の「見てきたような」描写で臨場感のある物語を紡いでいる。

 この歴史小説には陥落を体験・目撃した「現場証人」が多く登場する。コンスタンティノープル側の人物は、ヴェネツィア艦隊の指揮官、軍医、フィレンツェの商人、ローマ教会から派遣された枢機卿、修道士、イタリアからの留学生、ジェノヴァの代官、皇帝の秘書などである。オスマン側はスルタンの小姓やセルビアの指揮官らが登場する。この多様な登場人物たちの視点で、場面転換をくり返しながら物語が進行する。陥落する側の「現場証人」が多いことからもあきらかなように、千年以上続いた都市が滅亡するさまを描いた悲劇である。

 やや長めのエピローグが私には興味深かった。「現場証人」たちの後日談によって、これらの登場人物たちが何らかの形で陥落の記録を残した人々だと判明する。中には長く埋もれていて19世紀になって明らかになった記録もあるそうだ。

 本書はオスマン帝国を「トルコ」と表記している。最近になって「オスマン帝国はトルコとは言えない」と知ったので、少し気になる。だが、私も長いあいだ「トルコ」と認識していたし、いままでに読んだ本の大半は「トルコ」と記述して、抵抗なくそれら接していた。気にしてもしょうがないが、オスマン帝国を指す「トルコ」に頭の中でカッコを付ける気分で読んだ。

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