半世紀前に購入したカミュの『ペスト』を読んだ2020年03月31日

『ペスト(上)(下)』(カミュ/宮崎嶺雄訳/新潮文庫)
 コロナ騒動の余波でカミュの『ペスト』が売れているとの新聞記事があった。私は51年前(1969年)にこの小説を購入しているが未読である。あの頃、『異邦人』『シジフォスの神話』などは面白く読んだが『ペスト』は冒頭部分を読んだだけで、そのままになっていた。ペストで封鎖された都市の話が監禁状況という世界を暗喩している話だと了解し、読まなくても何となくわかった気になったのかもしれない(自己正当化の言い訳だが)。
 コロナで諸々がキャンセルになって空いた時間に、51年前に購入した『ペスト』を読んだ。

 『ペスト(上)(下)』(カミュ/宮崎嶺雄訳/新潮文庫)

 薄い文庫本2冊で、さほど長い小説ではない(いまの新潮文庫は1冊のようだ)。想像していたほど観念的な内容ではなく、面白く読了できた。

 叙述のスタイルが変わっている。医師リウーの視点の物語を「筆者」が語るスタイルで、筆者の見聞も折り込まれている。この筆者が何者か判然としないまま物語が進行し、最後に判明する。著者はなぜこんなまどろっこしい書き方を採ったのだろうか。読者は、それを考えざるを得ない。巧妙である。
 
 あらためてカミュの略歴を確認し、その若さに驚く。1913年生まれ、28歳で『異邦人』を刊行、1947年に『ペスト』を刊行したときは33歳、43歳でノーベル賞、その3年後に交通事故で死亡した。

 『ペスト』は感染でロックダウンされた町の話で、かなり具体的な物語になっているが、やはりペストは暗喩である。世界大戦の体験や強制収容所の様子、さらには大戦後の虚脱・混迷などを反映した小説に思える。いくつかの典型的な登場人物を配しているのも、ある意味ではわかりやすくて面白い。物語と哲学が心地よく配合されている。確かに名作である。