『シルクロードと唐帝国』の主役はソグド人2019年06月15日

『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫/講談社学術文庫)
 杉山正明氏や岡田英弘氏の著作で「世界史」におけるモンゴル帝国の重要性を知り、その関連で次の本を読んだ。カバーに「中央ユーラシアの草原から中華主義と西洋中心史観の打倒を訴える論争の書」とあり、それに惹かれたのである。

 『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫/講談社学術文庫)

 本書は約10年前に刊行された『興亡の世界史』シリーズを文庫化したもので、原著は2007年の刊行である。

 「あとがき」によれば著者の最初の一般向け概説書だそうだ。著者も認めているように概説書にしては高度である。シルクロードや唐帝国について一通りの知識がある人を対象にした研究報告の趣がある。私には未知の固有名詞が頻出し、読了に2週間以上を費やしたが、力の入った読み応えのある面白い歴史書だった。

 自分の中の中国史の印象をさぐってみると、いかにも中国らしい中国は大唐帝国のイメージである。李白や杜甫がいた時代、鑑真の出身地、阿倍仲麻呂が客死した地、玄奘三蔵が西に旅した時代、唐三彩を生み出した時代……これぞ「中国」である。

 最近になって、隋や唐は遊牧民である鮮卑系の拓跋部がひらいたとの知識を得て「へぇー」と思った。本書は隋建国以前の北朝、南朝から唐が衰退するまでの時代を中央ユーラシアの視点で描いている。私には不鮮明だった時代と地域のイメージが少しクリアになった。

 先月読んだ高校世界史の参考書で北方騎馬民族「鮮卑、柔然、突厥、ウイグル」の時代順と名称の記憶術を知ったが、本書によってその興亡の内実をかなり把握できた気がする。

 だが、本書の主役は鮮卑、柔然、突厥、ウイグルでも唐でもなく、そのすべてに絡むソグド人である(本書の表紙写真はソグド人の泥俑)。アラル海に注ぐシル河とアム河にはさまれたソグディアナを故郷として広範なシルクロード地帯で活躍したソグド商人の実態を描出したのが本書の眼目である。ウルムチの博物館に眠っていたソグド語の文書を著者とその友人(吉田豊:京大教授)が解読するシーンなどは圧巻だ。12世紀頃には他の民族に融解していったソグド人への興味がわいた。

 また、本書によって「シルクロード史観論争」なるものを知った。西欧の学者が名付けた「シルクロード」という言葉とその実態をどうとらえるかという学者間の論争である。一般人である私は「シルクロード」という言葉にロマンを感じるし、その雰囲気が好きである。

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