ファド歌手ROCAシリーズの完全版を読んだ2026年01月09日

 いしいひさいちが自費出版した『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』を読んだのは2年前だった。その後、朝日新聞の「ののちゃん」に吉川ロカが登場することはなく、このシリーズは終了しているのだと思っていた。だが、その後も書き下ろし自費出版などで継続していた。そして、昨年6月には一般書籍としてコンプリート版が出版されていた。

 出版から半年以上経ってこの本に気づき、すぐに入手して読んだ。

 『ROKAコンプリート』(いしいひさいち/徳間書店)

 わが故郷・岡山県玉野市がモデルの「たまのの市」出身のファド歌手・吉川ロカを描いたマンガである。このコンプリート版は自費出版した次の3冊をまとめて1冊にしている。

 (1)『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』
 (2)『花の雨が降る――ROCAエピソード集』
 (3)『金色に光る海――ROCA短編集』

 (1)と(2)は4コマが中心だが、いずれも最後の1編だけは数ページの話になっている。(3)は4コマではなく、すべてが数ページのマンガだ。

 既読の(1)は、ファド歌手を目指す女子高生・吉川ロカと、彼女の友人で年上の同級生・柴島美乃の話である。姉御肌の柴島美乃は港の運搬業者の娘で落第をくり返している暴力的な不良である。柴島美乃の祖父が経営する柴島商会は暴力団に近い。(1)のラストでは、音楽事務所と契約してプロ歌手への足がかりをつかんだ吉川ロカに柴島美乃からメールが届く。そこには「潮時だと思う。ウチはヤバイ筋だからいずれ問題になる。まだ間に合う。オレとかいなかったことにしろ。もう連絡するな。じゃあな。」とあった。吉川ロカは音楽事務所の窓から外に向かって「ゴメンナサイ」とうつむく。泣かせる惜別シーンだ。

 (2)(3)は(1)の続編ではなく、(1)とほぼ同じ時代設定の話になっている。それでも面白い。(1)(2)(3)はそれぞれ印象的なラストシーンで終わる。(1)と(3)は1頁1コマ、(2)は見開きで1コマの大画面だ。

 その(2)の見開き大画面に驚き、感動した。著者は「映画『天国と地獄』のモノマネです。」と述べている。あのモノクロ映画は、煙突から赤い煙が出るシーンだけ、煙がカラーになっていた。マンガでその手法を使っているのだ。ページを開いた瞬間、色の着いたゴミが挟まっていると思って指でこすり、それが着色印刷だと気づき、ドキッとした。

 この見開き大画面がスゴイのは、(1)のラストシーンと見事につながっている点である。(2)のラストシーンを見てはじめて、(1)の懐旧的なラストシーンの背後にある事情を知ることができた。いしいひさいちの構想力に感心した。

 私は本書を読むまで「吉川→よしかわ」「柴島→しばじま」と思っていたが、本書冒頭の人物紹介のフリガナで「吉川→きっかわ」「柴島→くにじま」だと知った。(1)にフリガナはなかったと思うが「鬼吉川」などの言葉が登場するので注意深く読めば「きっかわ」とわかったはずだ。いしいひさいちは細かい所にイロイロ忍ばせている。

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